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Chapter 2―1

『キハラホーム』は喜原組が経営しているが、表向きにはただの不動産会社でしかない。客の7割は一般人で、場所はギリギリオフィス街、風俗店などが密集する地域の境目に位置している。 実際に働いている社員も、組員とは何ら関わりはなく、事実を知っている者はかなり少ない。 ―――では、誰が組と繋がりがあるのか。 それは、役職のある連中だ。 「あ~、しまったな。」 山形が近くを通りかかるのを確認して、武智は態とらしく声を上げた。 「なんだ、どうした?」 「あ、山形部長。お疲れさまです。まだ残業ですか?」 「いや、帰るところだが。おまえ、さっき、何か唸ってただろう?問題か?」 「あ~、問題と言えばそうなんですが、パソコンが動かないんですよね。かといって、他のマシン使う訳にもいかないんですよ。ホストにアクセスが必要で。」 武智のパソコン動かないのは、もちろん嘘だ。 うちの会社にはホストと呼んでいるサーバーがあり、ここに経営、経理に関する情報が保存されている。 アクセスできるパソコンは限られており、税理士である武智と、幹部のモノだけだ。 「システム管理の花方さん、残ってませんよね。」 「オレのを使えばいい。花方はいつも通り定時で帰っただろう。」 「え、いいんですか?」 思っていた以上に上手くいって驚く。 武智が目を輝かせると、山形が満足そうに頷き、自分のデスクへ歩いていく。 人が良すぎるのか、大雑把すぎるのか、それとも、隠すような秘密は何も入っていないのか。 そうなのだろう。 山形の背を追いかけながら、武智は内心で落胆した。 ―――ハズレか。 山形はパソコンにパスワードを打ち込むと、クルリと武智を振り返った。 「好きに使え。くれぐれも壊すなよ。」 「ありがとうございます。」 「早く終わらせて飲みにでもいけよ。じゃ、おつかれ。」 カカカ―――と、いつもの笑い声を上げて、山形は去って行った。 「さて、終わらせるか。」 山形のパソコンからは何も期待できないと分かっていても、ここに確かに無い事を確かめねばならない。無駄ではないが、やはり億劫だ。

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