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Chapter 6―1
最初から打ち合わせていた様に、そう言葉も交わさずに二人はタクシーに乗り込んだ。何となく流れで武智の自宅へと行く事となり、ヒカルと並んでタクシーの後部座席に座っている。
店にいなかった事を武智が問うと、接待―――と、一言ヒカルから返ってきた。
「接待ですか?社長と?」
「そう、たまに社長さんに呼ばれるんだよ。高級料亭でゴハン食べたり~、お酌したり~、色々とご機嫌取ったり。」
『色々』の部分が気になって武智が顔を向けると、どう解釈したのかヒカルが苦笑いをする。
「普通のパーティとかなら女性が呼ばれるんだろうけど。まあ、相手によっては、男のオレが役に立つらしい。」
「ああ―――、成る程。」
公の場ではやはり連れて歩くなら女がいいだろう。しかし、人目を気にしない上に男が好きな相手なら、ヒカルは極上のツマミとなるだろう。
見知らぬ男にいいようにされているヒカルを想像して、愉快ではない気分になった。
「そう言えば、聞きたかったんだけど、村上さんてバイ?ゲイ?」
「違います。ノーマルですよ。」
「オレを抱いといて?」
クスクス―――と、ヒカルが楽しそうに笑う。武智の性的嗜好は完全にノーマルだ。
「ああ、そっか。村上さん、男とのやり方、知らなかったか。なら、何で?」
男がダメなら何故抱いたのか、と聞いたのだろう。
ヒカルだからだ。
毒だと分かっていても手を伸ばしてしまう。麻薬のようなヒカルのせいだ。まさか、自分の毒性を理解していないのだろうか。
「あなたが特別なんですよ。」
口説く為でなく、本心で言った。
あからさまに誘われて、ヒカルを抱かない男などたぶん存在しない。今、隣り合って会話をしているだけで、武智は既に―――。
しかし、武智の言葉を聞いて、ヒカルが覚めたような顔をして呟く。
「陳腐なドラマの台詞みたい。」
まあ、確かに。
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