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Chapter 22―3

白ワインが喉を流れ、腹の中が熱を上げる。 夜の10時を少し過ぎ、克成はカールトンホテルの1201号室にいた。目の前に雨宮が座っている事が夢のようだ。 たった一杯の酒量でフワフワと漂うような感覚になりつつ、克成は首を傾げた。 「内部調査?」 雨宮が一気に煽ったグラスをテーブルに置く。カツンと高い音が鳴った。 「発覚したのは、一昨日の朝。場所は、千葉警察本部の保管庫。暴力団から押収した薬物が、ごっそり無くなっていたらしい。」 「それは、大変な―――」 「詳しい事は何も分かってないから、一から調べなくちゃならない。この事を知ってるのは総監と、千葉の数人。これが、刑事部の名簿。」 数枚の紙の束を差し出され、克成は受け取った。 暴力団を相手にしているのは、組織犯罪対策係という部署だ。しかし、そこだけでなく刑事部全体が操作対象に入るらしい。 ―――これを二人で。 大変な仕事だ。 ズラズラと個人情報が記載されている資料を眺めながら、気が遠くなった。 「出来るだけ、内々に処理するように―――との事。まだ巷に出回っていないといいけど。」 想像していたより、深刻な事態だ。 薬物が一般市民に出回る前に手を打たねばならず、前回のように時間をかけた捜査は難しい。 ―――スピード勝負か。 ドボドボとワインをグラスに注ぎながら、雨宮が話を続ける。 「明日、警視庁から移動して、明後日から千葉本部に入る。期間は3週間以内、もちろん本名のまま。」 「雨宮さんも同じ部署ですか?」 「いや、警視長に空きがないみたいだから、別の―――」 「警視長?」 克成が首を傾げると、雨宮が不思議そうに瞬く。 「うん?警視長。オレの階級、言ってなかったか。」 「その歳で、警視長ですか!?」 すっとんきょうな声を上げた克成に対して、雨宮が煩そうに眉を寄せる。 「何歳と思ってるんだよ?29だし。」 「え、歳上ですか!?いやいや、それにしても―――」 29歳で警視長の地位に就く人間がいるなど、今まで聞いたことがない。何をすれば、その様な速さで出世できるのだ。 ―――色々とぶっ飛びすぎだ。 「とにかく―――、東城とは別行動にはなるけど、毎日報告に来るように。」 「毎日、ですか?」 「あ、そうか。これも言ってなかった。あっちでは独身寮に入ってもらうから。寮といっても、家具家電付きの普通のマンションらしいけど。―――で、オレと部屋が隣同士。連絡取りやすいだろ?」 そう聞かれても、克成の貧弱な脳ではまだ処理が追い付いていない。茫然としたまま頷くと、雨宮が満足そうに笑う。 「説明は終わり。はぁ、明日から忙しくなるから。今夜はしっかり休んで。」 「分かりました。」 雨宮も言った通り、精神的にも体力的にもハードなものになるだろう。 克成が手早く自分の荷物をまとめていると、雨宮が再びグラスを空にしてしまう。まだ離れがたいと思っているのに加えて、雨宮が帰ろうとせず、立ち上がるタイミングが掴めない。 しかし、いつまでも居座る訳にもいかないだろう。 「あの、今日は帰った方がいいですよね?」 色々と尋ねたい事はあったが、しばらくは共に行動できるなら、殊更今夜でなくてもいい。 そういった意味で聞いたのだが、雨宮は違うように解釈したらしく―――、スッと目を細めて微笑む。 ガラリと変わった雨宮の雰囲気に、ハッと息を飲んだ。 「東城は帰りたい?それとも、再会の夜を楽しみたい?」 まるで、椿山ヒカルのように、毒々しい色気を滴らせながら言う。暴力的な強引さで、気持ちがそちらへと引き摺られた。 ―――抗えない。 「どっちがいい?」 雨宮から妖しい誘いをかけられ、克成は全身が痺れるような錯覚に陥った。

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