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Chapter 23―1

伸ばした自分の指先は震えていた。 重ねた唇は柔く、熱く。 そして、胸が潰れるほど苦しく、目の前のこの人がどうしようもなく愛しかった。 「―――はっ、」 離れたふたりの隙間から、微かな声が零れる。 その声が東城克成の耳を甘く痺らせ、体の熱が上がった。 ―――駄目だ。 これでは『村上武智』の時と同じようになってしまう気がする。互いに嘘ばかりで体だけ繋がっていた頃にはもう戻りたくない。やっと隠し事をする必要がなくなったのだから。 克成は振りきるように、雨宮奏生の肩を引き離した。 「あなたとは、しません。」 急な克成の拒絶に、雨宮がキョトンと瞬く。 「好きです。好きだから、こういう事は―――。」 意味が分かっていないだろ相手に克成が言葉を重ねると、ククッ―――という、雨宮の笑い声に遮られた。 「まさか、今さらそんな事、言うとはな。」 確かに、今さらかもしれない。 気分を害した様子がない代わりに、特に感じる事もないらしく、雨宮があっさりと立ち上がる。 「やる気がないなら、別にいいけど。じゃあ、明日からよろしく。お疲れ。」 にこやかに笑って言うと、雨宮が踵を返す。 克成に大した興味はない―――と云うような素振りに見える。しかし、本当にそうだろうか。逆に、怒らせてしまったようにも感じる。 間違った事を言ったとは思えないが、じわっとイヤな汗が出てきた。 「誰にしようかな~。」 雨宮がサイドテーブルに腰掛け、スマホを弄り始める。ギョッとして、克成は椅子から立ち上がった。 「雨宮さん!」 慌てて声を上げる克成に対して、雨宮がのんびりとスマホから視線を離す。 「なに?」 「何って、―――まさか、オレの代わりに誰か呼ぶつもりじゃ、」 「そうだけど?」 心底不思議そうに雨宮が首を傾げる。そこに、後ろめたさのような感情は、まるで窺えない。愕然として、克成の体がふらついた。 「だって、東城はしないんだろ?オレ、ずっと怪我でできなくて、かなり溜まってるんだよ。東城がヤル気にならないなら、誰か別の相手を―――。」 「待ってください!」 悪気もなく当たり前のように話す雨宮の言葉を、克成は悲鳴のような声で遮った。 それはないだろ―――と、思う。 しかし、何と言えば分かってもらえるのか。異文化に触れた時のような感覚だ。 克成が頭を抱えていると、雨宮が呆れたようにため息を吐く。 「あのな。おまえがオレを好きなのは分かった。けじめをつけたいって事だろう?なら、そうすればいい。―――だが、それにオレが付き合う義理はないな。おまえの為に、何で我慢なんかしなきゃいけないんだ。」 雨宮はスマホを片手で触りながら、高飛車に言い放った。

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