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第1話
「おめでとう!」
石畳の道。爽やかな朝の光を浴びて、キラキラと光る笑顔を振りまく青年とキリッとした、少し怒っているかのような顔をした二人の青年にあちらこちらからかかる声。
「ついに成人となられたか。」
「子孫残しの相手さえ見つかれば、王家も安泰。」
「まだそれは先の事だろう?」
「いやいや、早く可愛いお世継ぎを見たいじゃないか!」
祝いの言葉に混じって聞こえて来る、期待とも好奇心とも取れる話に怒り顔の男の眉が一段とへの字になる。
「気にしなければいい…次の王を約束された身となれば、その世継ぎをと期待されるのは当然の事。」
「ならば何故私の願いを聞き入れない?」
声をかける者達の声で聞こえない振りをして、手を振りながら顔を背ける笑顔の男。
「無視をするな!」
大声に、祝いの場が一瞬で凍りつく。
「まったく、図体がでかくなった分、心も大きくなって下さいませんか?王子、ラントア様。」
笑顔の男が大げさに一礼をしながらおどけた声を出す。凍り付いていた周りの者達もそれを見て、一瞬の間をおいて笑い出した。
「…もういい!お前とは絶交だ!!」
ラントア様と呼ばれた男の顔が怒りの為に赤くなる。
笑顔の男はため息をつくと、ラントアに見えるように指を折り出した。
「何をやっている?」
「いや、これで何回目の絶交宣言かなぁ?と思って数えていた。」
ラントアの顔が、まるで湯気でも出そうなほどに一層赤くなる。
「…っざけるな!!お前とは本気で本気の絶交だ!!もう俺の側に近付くな!!!」
大声で怒鳴り散らすと城へ向かう石畳を早足で歩き出した。
「そうか…では私の場を探さなければならないな…ふぅむ。」
置いてけぼりにされた笑顔の男に向かって道の奥から男の声がかかった。
「俺のところに来いよ!楽しませてくれるんだろう?」
下卑た笑いを浮かべながら背が大きく屈強な男が暗い影の場所から陽ざしの元へと出てきた。
「ふぅん…何がお望み?このヌルヌルの体?それともどこにでも入れる触手?」
そのような男にも全く臆する事なく笑顔で返す。
「どちらもいいな。うん、気に入った!俺の子孫残しの相手にしてやるよ。」
笑顔の男に近付くと、その腰を抱き寄せた。
瞬間、ピシッと風を切る音が鳴り男が飛び跳ねた。
「いってぇ!!!」
「私のモノに手出しするならば、それ相応の覚悟があるんだろうな?ガルー。」
いつの間にか戻ってきたラントアの手に、今まさにガルーと呼ばれた男の手の甲にピシッと冷たい音を立てた鞭が握られていた。
フーフーと叩かれて赤くなった部分に息を吹きかけていたガルーが唇を尖らせたままでラントアに訴えた。
「目出度い日に絶交宣言なんてものをしやがるバカ王子様の気持ちを察して、仲直りのきっかけを作ってやったんじゃないか!?…ったく、スーラの事になると冗談も通じなくなんだからよぉ。」
「ごめんね、ガルー。僕の手、使う?」
笑顔を崩さなかったスーラがガルーの手を見て悲しそうな顔をすると、自分の片袖をまくり上げた。
人の腕だったモノが一瞬でゼリー状の透明な触手に変わるとガルーの赤く腫れた手の甲に触れた。
「お、冷たくて気持ちがいい…が、スーラ、俺は殺されたくないから手を離してくれないか?」
「どうしたの?」
「お前の後ろから発せられている殺気に気が付かないのか?!」
「あ…これはだって僕向けのモノではないから…ガルーは一回殺されたくらいじゃ死なないでしょ?だから大丈夫!」
ニコッと笑ってガルーの手に触手をきつく巻き付ける。
「いいから、離せ!!ラントアの目がマジだ!!!」
無理やり自分の手からスーラの触手を引きはがすと、ガルーは一目散に城に向かって走り出した。
「はあぁ、可哀そう。ガルー、本当に怖がっていたよ。」
「知るか!俺のモノに手を出したあいつが悪い!!絶交だ!!!」
「また絶交?ラントアももう成人の儀を受ける年になったんだから、そろそろその口癖も何とかした方がいいんじゃない?」
そう言って、ガルーの走り去った石畳をゆっくりとスーラが歩き出した。
持っていた鞭をケースに入れてその横に走り寄るラントアをチラとスーラが盗み見る。
「絶交…いるから言えるんだよね…する人がいるから…」
「何か言ったか?」
「ちょっとした独り言…あれ?そう言えば僕達って絶交してなかった?」
面白がるように無邪気な笑顔をラントアに向ける。
少し顔を赤らめたラントアが、見えて来た城の門の前で手を大きく振っているガルーを冷めた目で見ながらため息をつく。
「放っておくとあ奴のようにお前に触れようとするばかが出てくるから、絶交はやめた。お前は一生俺のモノだからな。」
「一生は無理だよ!僕とラントアとじゃ生きる長さが違いすぎる。それに…」
スーラの押し黙ったままでいるのを不思議に思ったラントアが顔を覗き込もうとすると、いつもの笑顔でスーラが顔を上げた。
「ほら、ガルーが待ちくたびれて門の前で座り込んじゃってるよ!あぁ、門番さん達が困ってる。」
スーラの言う通り、座り込むガルーと、どうしたらいいか分からずに困惑している門番達の姿が見えた。
「まったく、何をやっているんだあいつは!」
「ね?早く行って、門番さん達を助けてあげないと!」
言うが早いかスーラが駈け出す。
それを追うようにしてラントアも城に向かって駈け出した。
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