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第46話

「ねぇ、めでたし、めでたし?」 「ん?あぁ、めでたし、めでたしだ。」 ラントアがベッドで眠そうに目を擦る子供に微笑みかける。 スーラが頬を膨らませながら、ラントアの座る椅子に退いてとばかりに無理やり座った。 「また、わからないと思って、変な話吹き込んだでしょ?まったく、困った王様ですねぇ。」 「スーラ、俺がわけもわからない話を吹き込むだなんて、何てこと言うんだ!俺とお前の愛の話だ!とてもとても大事な話だろう?俺とお前がどうやって愛し合い、こいつが産まれたのか…聞く権利がこいつにはある。」 「もう、聞き過ぎて耳が腐りそうだから、ラントアはさっさと寝室に戻ってください。ねぇ?」 スーラが幼児に同意を求めると、ニコニコと笑いながら、ねぇと返して来る。 「すみませんが、ラントア様もスーラ様もお部屋にお戻りください。もう、王子の眠るお時間です。どうかお戻りを。」 丁寧な言葉とは裏腹に、王子の乳母が二人の背中をぐいぐいと押して部屋の外に追い出した。追い出された格好の二人は同時にため息をつくとしばらく名残惜しそうに部屋の前で扉を見ていたが、もう一度大きなため息をつくと二人で仕方なさそうに部屋に向かって歩き出した。 「僕の子供なのになぁ。」 「俺達の子供だろ?まぁ、王子という身分では仕方がないが…俺もそうだったし。」 「あぁあ、つまんない。」 ラントアが手を伸ばしてスーラの腰を抱く。 「だけど、これからは俺達の時間だろ?二人目を期待している声もあるし…俺も欲しい。なぁ、スーラ、お前はどうだ?」 ラントアの肩に頭を寄り掛からせ、スーラがふふっと笑う。 「そんなの欲しいに決まってる。でも…どうせまた取り上げられちゃうんだよなぁ…つまらない。」 ラントアが少し寂しそうにするスーラの髪に軽く唇を当てた。 「そうだな…でも、俺がそんな寂しさを感じさせないくらいに、お前を愛すからいいだろう?」 ん?と見つめられてスーラが顔を赤くする。 「ラントアのバカ。こんなところでそんな話するなよ…ったく。でも、いいよ。僕はラントアに愛されるためにここにいる。様々な人や事を全て僕の心から捨て去って、ラントアに愛される事を僕が選んだんだ。あの子はその証。」 二人の間にガルーとサンクリウスの面影が揺れた。 「あいつら今頃どうしているかな?」 「結局、二人は今も見つからないまま?」 「ああ。地下室のサンクリウスの部屋に行ってみたが、二人の姿はどこにもなかった。あんな状態でどちらがどうやってあの場から姿を消したのか…全くわからない。ただ、お前の耳元で囁いた声…お前を見ているっていうやつな…」 スーラが思い出して、ブルっと身震いする。 その肩をぐっと掴むとラントアが話を続けた。 「やはりあれはサンクリウスだと思うんだ。ただ、二人目のサンクリウス。」 「二人目?」 「あれから色々と読んでみて、どうもサンクリウスの産みの親というのが珍しい頭の二つある者が生まれ出る種族らしくてな。サンクリウスの親は普通の一つ頭だったようだが、サンクリウスは産まれてすぐに体が弱いという理由で、皆から隠されて育っているんだ。」 「もしかして…」 スーラの言葉にラントアが頷く。 「二つ頭の子供ができて王は驚き、その子を地下室に隠した。親は、最悪な話だが殺したのかもしれない。」 スーラがぎゅっと目を瞑り、ラントアの腕をキツく掴んだ。その腕をラントアの腕が上から覆い、スーラの身体を支えるようにしてゆっくりと歩く。 「そして、その子はあの地下室かもしくはサンクリウスと共に暮らしていたのかもしれない。だから、あの二人はもしかしたらその子によって助けられ、共に…」 「本当に?ラントア、本当にそうなら、いつかガルーに会えるかな?サンクリウスにも聞きたいことがいっぱいあるんだ!それとサンクリウスの二つ目の頭とも、会ってみたい!ねぇ、ラントア…会えるかな?」 「あぁ、きっといつか会えるさ。何たってガルーは今でもこの国の無敵の騎士団長様だ。きっと、なんてこともなかったかのように、笑って帰って来るさ。きっとな…」 「うん、そうだね…」 そう言って部屋の前に着いたラントアが扉を開けてスーラを先に部屋に入れる。 自分も部屋に入る直前、中庭の真ん中にある木の下にそっと目を向けた。 さーっと夜風が吹き、月明かりが揺れる葉を優しく照らし出す。 揺れる木の葉が舞い踊る中に、2人の笑顔が覗いた気がした。 「ガルー、サンクリウス…いつまでも見守っていてくれよ…この国と、そして俺達を。」 そう囁くと、ラントアも部屋に入り静かに扉を閉めた。

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