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第1話
夜の帳が下りた都内某所の公園。園内を照らす外灯は数本ほど明滅しており、暗さに拍車をかけて不気味な夜の演出にもなっている。初めてここを通る人間がいればきっと引き返すだろう。
天堂 美風 にとっては、いつもの歩き慣れた公園。何なら鼻歌交じりで通る事もある。しかし今夜は歩きながら何度も出る大きな欠伸に、いい加減辟易としていた。
夕方まで大学。そして先程まで喫茶店でのバイトだったのだが、一日中強烈な睡魔との戦いでもあった。
別に夜遊びや、夜更かしをしていたわけではない。昨夜、就寝前に美風の頭の中で〝何か〟が語りかけてきたせいであった。
〝──が目覚める〟
男か女か判別つかない妙な声。それは透明感があり、脳に直接響く聞き取りやすい音のようなものにも感じた。それなのに肝心な部分が聞き取れない。
何が目覚めるのだと、その声のようなものに語りかけたが、声は一方的に二、三度同じ事を言うと消えてしまった。
あんな事は初めてだった。睡眠中なら夢だったと片付ける事も出来るが、確実に寝る前で布団にも入っていなかった。何だったのだと、気味が悪くなってなかなか寝付けないでいたのだ。
おかげでバイト仲間にも随分心配をかけた。客の前では気をつけていたとしても仕事中だ。腑抜けた態度でいた事に反省している。
明日も大学がある。今夜は早く寝ようと幾度目かの欠伸をしようとした時、何か違和感を感じ、美風は歩調を僅かに緩めた。
「……静かだ」
ボソリと呟き、美風は園内を見渡した。
平日のバイト終わりは二十一時。自宅アパートまでの抜け道であるこの公園は、昼間は多くの親子で賑わうが、十九時を過ぎると人影はほぼ無くなる。二十一時にもなれば、全く人通りが無いのが常だ。だから静かなのは当然なのだが。
「なんで今日は何もいない……」
美風は美しく整った顔をしかめた。
いつもは草の茂みや、木の影、またはベンチなどのあらゆる場所に蠢くものがいる。
それは動物や、人目を忍んだカップルではない。俗に言う亡霊であったり、物の怪の類いであったりと、謂わば人ならざるものがここにはよく集結しているのだ。
美風はそう言ったモノが鮮明に見える。悪魔や妖怪、人々が架空の存在だと信じて疑わないモノも、美風の中では存在するモノだ。
彼らはこちらから干渉しない限りは、寄ってくることはほぼない。ごく稀に見える美風が珍しいのか、悪魔や妖怪が好奇心で近づいてくる時がある。しかし美風に直接触れる事が出来ないようで、触れようとすると、彼らは何か見えないバリアに弾かれたように飛び退 る。
御守りの類いを身につけているわけではないのに、何故かは不明だが、自分に害をなすモノがいないと分かれば、彼らを必要以上に恐れなくてもいい。
美風は生活の一部だと割り切るようになり、今では彼らを観察する方が楽しい時もあったりする。
「こんなに静かだと逆に薄気味悪いな」
美風はさっさと帰ろうと、後ろを振り返らずに足早に公園を抜けた。
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