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第4話

「おーい、起きろ」  無駄だと分かっていながら一応声をかけるが、やはり男に反応はない。美風は諦めて一度天を仰ぐと、気合いを入れ直した。 「よし!」   ズルズルと男を引きずり、中に入れる。 「う……やっぱ、おもっ……。何食ったらこんなにデカくなるんだよ」  文句言いつつも居間にようやく到達すると、美風は男を絨毯の上に転がして、崩れ落ちるように座り込んだ。  この部屋はロフト付きの1Kでトイレと風呂がセパレートになっている。広くはないのに、ここまでが何十メートルもあったのではないかと思った程だ。  こんな得体の知れないモノを、部屋に上げてしまってどうかしている。この男はそこらに(たむろ)しているモノとは全く違う。相当に危険だと全身が警告を発している。  もしかして公園内にいた彼らは、この男の気に当てられて逃げていったのかもしれない。それなのに放っておかなかった自分に心底呆れた。殺されてしまう危険だってあるというのに。  しかしこうなってしまっては、どうしようもない。再び外に放り出すのも人としてどうかと思った。もうなるようになるしかない。 「それに……今は弱っているし、主導権は自分にある……はず」 「ん……」  突然の声に、美風の身体は驚きで跳ね上がった。 「お……起きたのか?」  男の眉間には深いシワが寄っていく。美風は急いで距離をとり、男から目を離さず警戒する。 「う……」  頭が痛むのか、男は額に手を乗せてから眉間を揉んでいる。そしてゆっくりと瞼を持ち上げていった。  辺りを見渡し、不可解そうに眉を寄せつつ、男は徐ろに上半身を起こす。スーツ同様に漆黒の髪に漆黒の瞳。  黒とはこんなに美しい色だっただろうか。どうしても暗いイメージに関連付けられる色。それがこの男が纏うと高貴な色として映る。きっと黒ではなくても、男が纏うとどんな色でも優美なものとなるはずだ。  男が乱暴に髪を掻き混ぜ、頭を軽く振る。それだけの行為に、なんだこの色香は、と美風の視線は釘付けとなった。  凛々しく精悍な顔立ち。やはり思っていた通りに目を開くと、この世の者ではない美しさと雄々しさで満ち溢れている。  キリッとした切れ長の目がついに美風を捉えた。そして少し驚いたように男の目が見開かれる。  美風は無意識に息を止めていた。まるで猛獣にロックオンされてしまった小動物のような気持ちになる。 『オマエ、ナニモノダ』 「……え?」  男はまるでしなやかな黒豹のように、美風の近くへとやってくる。八畳ほどの狭い部屋だ。直ぐに綺麗な男の顔が美風の視界いっぱいとなった。

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