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第9話

 恐ろしい事を口にしたアリソンは、やはり悪魔なんだと痛感する。  二十人もの尊い命が犠牲となると知って、黙って見過ごすことは出来ない。別に正義感を振りかざすわけではない。ただ心の奥底にある使命感のようなものが湧き上がってきて、悪事を働いている者を見たときには黙っていられなくなる。そのおかげで何度も危ない目に遭ってきた。殺されそうになった事もある。でも運の強さにいつも助けられていた。  これはきっと性分だから、この先も例え危ない事があってもやめないだろう。 「もういいか?」 「え? あ! ごめん」  アリソンの口を塞いだままだった。美風は慌てて口から手を退ける。  そして同時に驚きもしていた。悪魔が人間に対して我慢をする。アリソンが口にしていた通りに、普通ならアリソンにとっては許せない行為だったはず。それなのに振り払ったりせずに我慢してくれていた。少しは歩み寄ってくれているのかと思いたくなる。  だけどここに居るというならば、最低限の事は言っておかなければいけない。 「あのさ、居ていいとは言ったけど、見ての通り狭いし、飯だってバイトで切り盛りしてるからそんな良い物は作れないよ? 期待されても困るし、文句は受け付けない。あるなら出ていってもらっていいし。あ、でも人を殺すのはダメだから。それとプライバシーは守るようにして欲しい。これは絶対に」  こんな狭くて一部屋しかないのにプライバシーもあったものじゃないが、一人の時間などは干渉しないで欲しかった。 「あぁ、分かった。俺はミカの傍に居られるなら文句はない」 「え……なに?」  それはどういう意味なのだと、やたらと近いアリソンに問う。するとアリソンの目が何やら怪しく光る。 「俺はミカが気に入った。人間にしては美しいこの顔もそうだが、何よりもミカの目がいい。怯えているくせに真っ直ぐに俺を見返す目力。そして物怖じしない言動。可愛くてたまらない」 「は? え、ちょ、ちょ……っ」  美風の後頭部にアリソンの手が回り、そのまま引き寄せられる。これは一体どういう状況だと、アリソンの腕の中で逃れようと精一杯もがくが、逆にアリソンの締め付けがキツくなってしまった。 「はな……せよ」 「ミカ、俺の伴侶となれ」  腕が少し緩んでホッとしたのも束の間。アリソンは美風の顔を覗きながら、とんでもない事を口にした。 「はぁ!? 伴侶って、いやいや、いま会ったばっかだろ! じゃなくてそもそもアンタ悪魔だし、男だし!」 「時間など関係ないだろ。性別に関しても問題ない」  悪魔は人を魅了し、魂を奪うという。それに違わずアリソンの蠱惑(こわく)的な笑みは見つめていると、本当に危険であった。

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