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第19話
嬉しそうなアリソンに、美風の眉が少しずつ寄っていく。言葉が足りなかったのだと気づいた。きっととんでもない勘違いをしていそうだ。
「言っておくけど、セ……セックスはしないからな。それにオレは他の人間が犠牲になったらイヤなだけだし。 なぁ、本当はキス以外でも何か方法はあるんじゃないのか?」
近寄ってくるアリソンに来るなと手で制し、しっかり釘を刺したつもりでいたが、アリソンに手首を掴まれてしまう。
「な、なに? 離せよ」
「必死に否定しているが、案外俺のことをちゃんと思ってくれているんだな」
「は? 違うから! ちゃんと聞いてたか? 他の人間が心配なんだよ」
「はいはい」
人の言うことなど聞かず、アリソンは自身に美風を引き寄せると首筋へと顔を持っていく。
「キス以外だと、ここからだな」
「え……ちょ……」
「やはり美風はいい香りがする」
「匂いを嗅ぐなって」
首筋に生暖かい息がかかり、美風の身体に悪寒が走る。押してもどうせ力負けするのだが、どうしても身体は離れたいともがいてしまう。
「なぁアリソン何してんだよ。離せって」
「ここから血を吸えば補給できる」
美風は咄嗟に身を引く。アリソンの顔が視界に入った時、その口元を見て美風は唖然とした。
「え……牙……? ヴァンパイアみたいじゃん」
「ヴァンパイアは日に当たると灰になるがな」
アリソンは愉快そうに低く笑う。まるでそれが滑稽だと言わんばかりに。
確かにヴァンパイアなら今朝の陽光を浴びた時に灰になっていただろう。ならばこの男は……。
「アリソン──」
「血を吸われた者には毒が回る。そして淫らに悪魔を誘うようになる。謂わば人間界で言うところの媚薬に近いのか。吸いすぎるともちろん死ぬが」
「は……」
気になったアリソンの種族の事は直ぐ様に吹き飛んでいく。だってとんでもない言葉が耳に入ってきたからだ。
〝淫らに〟〝媚薬〟……頭にしっかり言葉の意味が浸透していくと、美風の顔は一気に熱くなっていった。
「ち、血は絶対ダメだ!」
「それは残念だな。ミカの乱れた姿が見たかったが……。ならばキスしかないな」
「キ……」
本当に他に方法はないのか。疑ったところで自分は悪魔じゃない。その方法など知る由もない。
目の前で凄く嫌な笑みを見せているアリソンに、一発ぐらいお見舞もしたくなる。実際は相手が悪魔なのでしないけど。
「……分かった。それしか方法がないんじゃ仕方ないしな」
不承不承と美風が言う。アリソンは目を細め、美風の白皙の頬に手を添える。
美風は何だ? とアリソンの手首を掴むが外すことが出来ない。
(こいつ、本当は石なんじゃないのか? 固すぎるだろ)
「では早速頂くぞ」
「は? いやいや、さっき女性から貰ったって言っただろ? 今日はもういいんじゃねぇの?」
「あんな不味いもの、補給にもならない。口直しが必要だ」
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