22 / 123
第22話
翌朝は炊きたてのご飯と、ワカメと豆腐のシンプルな味噌汁。そして玉子焼と鯖の塩焼きと味付けのりが食卓に並ぶ。
「いい匂いだ」
「ちゃんと顔洗って歯磨いた?」
「あぁ、ちゃんと洗って磨いたぞ。どれも俺のために用意してくれて助かってる」
いつもは少し前髪が下りているが、顔を洗ったばかりのせいか額が全開になっている。整った顔が更に強調され、まさにThe美貌だ。
悪魔も人間のように顔だけ見られることに何か思ったりするのだろうか。いや、目の前の男は絶対になにも思わないだろう。顔がいい事を完全に自分の武器として受け入れてそうだ。
「じゃ、食べよっか。いただきます!」
「いただきます」
昨日も感じたが、悪魔にも育ちというものがあるのか、アリソンの食事の所作はとても綺麗だ。がっつくような食べ方など絶対にしない。厳しく躾られた事が見える。
「アリソン、箸の使い方上手いよな。向こうでも箸使ってたのか?」
「あぁ、魔界でも料理に合わせて箸を使うことはある」
「へぇ、料理に合わせてとか、何か育ちが良さそうなことで」
チラリとアリソンの様子を窺ったが、アリソンはフワリと微笑むだけで何も言わなかった。
今日一日最後の講義中に、美風は今晩のおかずは何にしようかと考える。アリソンの嫌いな食べ物を聞くのを忘れたが、今のところこれが苦手だという物は聞いていない。全て文句も言わず口にしてくれている。ならば昨夜作り損ねたカレーにするかと即決した。
授業終了のメロディが流れると、講義室は一気にざわめき出す。家路に就く者やバイトへ行く者、ゼミやサークルにと慌ただしく人が動く。美風への挨拶はもちろん忘れずに。
「美風バイト行く前にコンビニ寄っていいか?」
「うん、いいぞ」
翔真と広い講義室を出て廊下を歩く。すると何か興奮した声があちこちから聞こえてきた。何だと翔真と顔を見合わせる。すると突然、美風らの前を歩いている女子生徒の一人も、スマホを見てテンションを上げた。
「ねぇ、いま門のところにめっちゃくちゃ半端ないイケメンがいるらしいよ」
「え、うそ!? 見に行こうよ!」
キャッキャ言いながら駆け出して行った二人。周囲にいた女子生徒らも同じように駆けていく。
美風は何気に窓の外を見た。ここからだと校門までは距離があるが、視界には入る場所だ。そして目に入った光景に美風は愕然とする。
(まさか……)
人だかりの中に、一人飛び抜けて背が高い男がいる。
「美風? どうかしたのか?」
「ごめん、ちょっと」
「え、おい!?」
突如と走り出した美風に、翔真が慌ててついてくる。
美風は半ばパニック状態だ。何故ここが分かったのか。そして何故ここに来たのか。もうここから叫びたい気持ちだった。
ともだちにシェアしよう!