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第21話
「それよりも、ミカもキスが気に入ってくれたようで、俺は嬉しいよ」
「……ひゃっ」
突然アリソンにあらぬ場所を掴まれる。お陰で予期していなかった身体は面白い程に跳ね、尚且つ恥ずかしい声まで上がってしまった。
「ど、どこ触ってんだよ! 離せ」
「さっきまで勃てていただ──」
「アリソン! その手を離さないと、もう生気はやらないぞ!」
美風の怒声にアリソンは両手を上げる。もうしないというポーズだ。美風はアリソンを睨みながらも大きく息を吐いて落ち着かせる。
まさかバレていたとは。穴があったら入りたいとはまさに今のことだ。
「悪かった。だがそんなに怒らなくてもいいだろ?」
反省しているかと思いきや開き直りかと、美風のこめかみには青筋が立つ。
「こっちはこんなの初めてで色々戸惑ってるのに、あまりにもデリカシーが無さすぎる。オレが急にアリソンのを触ったら怒るだろ?」
「いや、全く」
思わずズッコケそうになった身体をどうにか制する。
(だったら痛いって泣きつくまで揉んでやろうか! って、やっぱ触りたくないけど)
「他の者が俺の身体に断りなく触れたら、許さないがな」
徐々に黒に戻りつつある目が剣呑に光る。纏う空気にも冷気が混ざる。こういうところは本当に悪魔だなと密かに美風は思った。
「オレはまだアリソンにそこまで気を許してないんだから、アリソンは良くてもオレはダメだ。だから勝手に触らないでくれよ」
ビシッと言っておく。アリソンは少し渋るような顔をしたが、理解はしてくれたようだ。
一つの問題が何とか片付くと、次はと美風は部屋の隅に追いやられた大きな袋を見た。アリソンに買った古着をどうしようかと告げると、アリソンは美風が買ったことが嬉しかったのか、着ると言った。センスについては文句があっても受け付けられないが。
「それから、その金はミカのものだから持っていてくれ」
ローテブルの上に置かれた僅かに膨らむ長財布。アリソンはそれを手に持つと美風へと差し出す。
美風は緩く首を振った。
「それはアリソンの金だから、アリソンが持ってるといいよ。無駄遣いはしないようにな」
「それでは俺が稼ぎに行った意味がなくなる。言ったはずだ。これはミカのためだと」
これはきっと押し問答になることが目に見えている。アリソンが本当に美風のためにと稼ぎに出たとなると、絶対に引くことはしないはずだ。
「分かった。とりあえず半分は貰っておく。残りはアリソンの金だよ。人間界では家族のために働いた者には、お小遣いがもらえるところもあるしね」
反論されないようにと、お小遣い制度を持ち出していかにもな理由を言う。もちろん半分のお金はアリソン費用として置いておく。
アリソンの眉が怪訝そうに歪んでいる。だがどちらも引かない事を察したらしく、アリソンの眉間のシワは綺麗に取れていった。
人間と悪魔がお互いに気を使い合う。こんな事あるのだろうかと、美風は可笑しくてたまらず笑ってしまった。
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