27 / 123

第27話

「アリソン?」 「あれが見えるか?」  そう問われた美風はアリソンの視線の先を辿った。そして美風の心臓は一気に緊張から速さを増していく。 「なにあれ……」  アリソンが現れてからというもの、この公園や周辺では幽霊や魔物といった類いは見なくなったというのに、それは悠然とこちらを見ている。その距離約二十メートル程か。  通りの両脇にはベンチが設置されており、左手のベンチの裏手は草木が生い茂り、右手には芝生が広がっている。〝それは〟左手の草木からのっそりと現れた。 「キメラか」 「キメラ?」  まるで映画に出てくるエイリアンのような姿形をしている。口元は大きく前に突き出し、開いた口から鋭利に尖った牙がずっしりと並んでいるのが分かる。そこから涎が滴り落ちる。あの涎が酸なら絶対に近づきたくない。  大きさはアリソンと同じくらいの背丈か。顔以外は人間に近いが、トカゲのような尻尾があり二足歩行だ。 「あぁ、妖怪と魔族のようだ」 「妖怪と魔族……」  妖怪は自然的に発生する事が多いと聞く。それは悪であったり善であったりとまちまちだ。しかし魔族は違う。魔界に住む絶対的な『悪』だ。  そしてキメラと言われると納得なのは、オーラの色だ。赤と灰色が見える。 「でも違う種族が混じり合うって……そんなことあるのか?」 「通常はないな」  通常はない。ではあれは非常だということかと、美風は思わずアリソンの腕に触れた。アリソンは美風をそっと自身の背後へとやる。 「あいつ、アリソンにビビらないなんて」  アリソンの陰からそっと覗くと、キメラはまるで美風に向かって大きな口をこれでもかと開けて見せてくる。その際に大量の涎がこぼれ落ちた。地面に触れた涎がジュワッと煙を立てないということは、酸では無さそうだった。それにしても本当に見た目がグロテスクだ。全身が黒光りしている。 「どうやらあれは、知能もなければ感情もないようだな。ただの器のような物だ。だから俺の微々たる魔力にも反応しない」 「だったらなんで? なんかオレを狙ってるような気がすんだけど」  そう美風が呟くとアリソンがチラリと視線を寄越してきた。そして何かを考えるようにアリソンが視線を外した時、キメラが突然こちらへと飛び掛ってきた。 「アリソン!」  見える能力があっても、美風には払えたり退治したりする能力は皆無だ。あんなに恐ろしい形相をしたエイリアンなど、とてもじゃないけど倒せない。 「心配無用だ」  そう言ったアリソンは、同時に右腕を振り上げた。手のひらから青い炎が現れるとキメラに向かって放たれる。 「ギャッ!」  一瞬にしてキメラが青い炎に包まれ、そして灰のように散っていく。瞬殺だった。  美風は呆然と、全ての灰が夜空へと舞い上がり、消えていくのを眺めた。

ともだちにシェアしよう!