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第26話

 矛盾しているなと自分でも思っている。悪魔とは距離を取るのが適切で正解なのに、いざアリソンから歩み寄りのない言葉を聞くと悲しくなる。  これはきっとアリソンとの距離感があやふやになっているせいだろう。アリソンに対して、少し気の緩みが出来てしまっているせいだ。  毅然と悪魔と人間の線引きをして、深入りしないようにしなければならない。そうでないと、もし何かあった時、きっと人間とアリソンとの間で迷いが出来てしまう。適切な判断が出来ないだろう。取り返しのつかない事があった時、悔やみきれないことになる。  でもと、美風は隣を歩く背の高い男を見上げた。目が合うと、無表情を貫いていた顔が嘘のように優しくなる。  一ヶ月近く毎日一緒にいて、アリソンがとても律儀な男だと改めて実感させられていた。  美風が大学に行っている時間帯の事は、正直本当は何をしているかは分からない。本人は昼間はやはり疲れるだとかで、昼寝をしていると言っているが。  それでも美風と一緒にいる時は、美風への思いやりがあり、嫌がる事は決してしてこない。伴侶にするなどと口では強引なことを言うくせに、美風に触れる時は約束通りに許可を得てから触れてくる。  悪魔らしからぬ振る舞いと優しさに、邪険にするなどどうして出来るだろうか。  アリソンとの生活はストレスもなく楽しい。そしておかしな事に安心感も芽生えている。  美風の人生二十年は、家族は祖父一人という環境で自分はしっかりと強く生きていかなければならなかった。心から頼れる存在が近くにはいない。親友の翔真にだって心から頼りきる事は出来なかった。それをこんな身近で美風を全身で受け止めてくれる存在がいれば、たとえ相手が悪魔であっても縋り付きたくなってしまう。そう、ホッとしてしまうのだ。強がっていても一人はやはり寂しい。 「なぁアリソン……」 「なんだ?」  今日のアリソンは白の長袖シャツに黒のスキニーパンツ。どシンプルなのに、アリソンが着るとやはり(さま)になる。  アリソンが頬に張り付いた美風の髪を、長い指で払ってくれる。覗き込んでくるアリソンの目がとても甘くて、美風はそわそわと落ち着かなくなってしまう。 「ありがと……。それで、その……いつ魔界に帰れるとか、迎えがくるとか……何か分かったのか?」  アリソンはふと夜空を見上げ、そしてゆっくりと首を降った。 「まだ迎えの者はこっちへは来れないだろうな。俺もまだ帰れないというより、帰りたくないな。ミカと少しでも離れるのは我慢ならない」 「そ、そっか……」  ホッとしている自分がいる中で、迎えの者はこっちに来れないとはどういう事なのかと気になったその時。突然アリソンの腕が美風の行く手を阻むように伸びてきた。

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