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第25話

 翔真には幽霊などが見えることは言っていない。そのためアリソンが本当は悪魔ですだなんて、到底言えたものではなかった。この男を野放しにする方が、とても危険だということを言えたらどれほどいいか。  だから心配性の翔真にはこっそりと、アリソンは見た目も大きいし、ボディーガードにもなっていると言っておいた。それでも完全には納得していないようだった。でもしつこく不満を言ってくることはなく、ひとまず美風はホッとした。 「アリソン、知ってると思うけどオレはこれから二十一時までバイトだけど」 「あぁ〝喫茶店〟のだろ? 俺も行くぞ」 「え……?」  驚きを口にしたのは美風ではない。翔真だ。アリソンが鋭い一瞥を翔真に向けたが、直ぐに翔真の存在を消したかのように美風だけをその漆黒に映した。 「行くのはいいけど……四時間もあるしなぁ。ま、途中で帰りたくなったら帰って」 「分かった」  きっとアリソンが来ることが不満なのだろう。翔真は露骨にアリソンを避け、終始美風だけに話しかけていた。  この二人はどうも相性が悪いようだ。いや、悪魔と相性がいい方が困るが。美風は少し複雑な気持ちで一人苦笑をもらした。  この日を境に、アリソンは美風のバイトがある日は必ず喫茶店に訪れるようになった。  ブレンドコーヒーが気に入ったようでいつもブラックで飲んでいる。  接客はもちろん美風だけが許されるために、そのうちバイト仲間はアリソンを「孤高のキング」と呼ぶようになった。言い得て妙だと美風も内心で頷いたものだ。  規格外の容姿は言わずもがなで、美風のバイト中は店内に置いている雑誌を静かに読み、スタッフや客の視線、声は完全にシャットアウトしているせいもあるからだ。反応があるのは美風にだけ。  バイト仲間からはかなり羨ましがられるが、あれには近づかない方が賢明だと言えるものなら言いたい。  翔馬とアリソンはいつまで経っても、相変わらず険悪な雰囲気だ。間に入ると余計に拗れるので、もう放っておいている。 「アリソンお待たせ。帰ろっか」 「終わったか。お疲れ様」  アリソンが微笑んで美風の頭を撫でる。こうして誰かに〝お疲れ様〟と労ってもらうと、やっぱり嬉しい。  周囲からは貴重なアリソンの笑顔に、悲鳴があちこちから小さく漏れていた。 「アリソンが遠縁だって嘘、バイトのみんなは信じてくれたみたいだな。さすがに某国王子は翔馬以外には言えないし。それにアリソンすっかり人気者だぞ。みんなアリソンと喋りたいって思ってんだよ?」  風薫る季節。五月に入れば夜の空気も澄んで清々しい風が吹く。  喫茶店【tiedeur(ティエドゥール)】からアパートまで歩いて十五分程。公園を抜けるとかなり短縮出来て十分もかからない。アリソンと二人、のんびりと歩く。 「人間がどう思おうが、どうでもいい」  今日も外灯がしっかりと灯らない公園内に、ふわりと柔らかい風が吹き、アリソンの前髪が後ろへと流されていく。それによって表情がよりはっきりとした。  アリソンにとって人間は取るに足らない存在。冷たい双眸がそう言っているようで、美風は少し寂しい気持ちになった。

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