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第29話

 キメラに襲われてから三週間が経った。あれから一度もキメラは現れていない。何だったのかと疑問が残るが、アリソンが全く触れてこないため、美風も終わった事と考えないようにした。  他の魔物らに関しては、相変わらずアリソンが現れるエリアには姿を全く見せない。  昼間も魔物や霊が居ることは居るが、だいたいが夜に活発に動き回る。真っ昼間のキャンパス内で見かける彼らは何をするでもなく、浮遊していたり物陰で寝ていたりと人間界に上手く溶け込み、悪さはしない。悪霊や強い魔物らが現れない限りは平和な日常だ。 「なぁ、美風」  まだ本格的な梅雨入りは先だが、すっきりとしない空が広がる日が多くなってきた今日(こんにち)。  今日もどんよりと鈍色の雲が厚く広がっている。  大学内の広い学食。庭に咲く色とりどりの花が一望出来る窓際のテーブルに、翔馬と二人で座っている。  美風は鶏もも肉の南蛮漬けを口に放り込みながら、翔馬へと視線を上げた。 「まだあのアリソンって男いるんだろ? もうかれこれ二ヶ月近く経つのにおかしくないか? 王子だったらもう迎えが来てねぇと。いくらなんでも国では大変なことになってるだろうし、ニュースとかで絶対取り上げられるだろう? 美風騙されてるぞ。もういい加減警察に行った方がいい。警察ならちゃんと調べてくれるだろうし。美風が面倒見る必要なんてねぇよ」  翔馬は食べかけの唐揚げ定食に箸を置き、不機嫌に言い放つ。  毎日チクチクと言われているが、ここまで翔馬が嫌悪を滲ませて言うのは初めてだった。のらりくらりと躱してきたせいで不満が爆発したのかもしれない。  翔馬が言ってくれているのは至極正しいことだ。どんな人間かも分からない、しかも大きい男となると、心配するのは当然だ。美風だって逆の立場なら当然心配するし、追い出せと言うかもしれない。  その優しさはとても身に染みて嬉しい。でももうアリソンの事は、悪魔という理由での使命感で一緒にいるわけではなくなっている。  今更アリソンに出ていけと言う理由を作る方が難しくなっていた。 「翔馬、心配かけて本当にごめんな。翔馬の言う通り王子っていうのは最近は怪しくなってる。なんせ本人の記憶が定かじゃないし、確認しようがない。でもアリソンは本当に律儀な男で、一緒にいて困ると感じたことがないんだ。これだけ一緒に住んでたら普通イヤな面とか見えてくるだろ? でもアリソンはないんだよ。ストレスがないのは、シェアハウスと考えたら文句なしの同居人だよ」  こんなに長く一緒にいることを想定してなかっただけに、アリソンを安易に王子設定にしたのはまずかったと今更後悔しても遅い。だから今言えるのはアリソンに害がないという事を伝えるしかなかった。 「本当に……何もないのか?」 「……何もって?」  翔馬の声が妙に低く、目つきも少し怖い。

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