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第70話
高い木々が生い茂る広大な森のような場所から移動する間際、ミカエルはふと後ろへと振り向いた。
「ミカ? どうした」
「うん……そう言えば、ルシファーの気配を少しも感じないなと思って」
辺り一帯は静かだ。鳥のような生物が空を旋回している様子から、危機的状況でないことは分かるが、ルシファーは一体何処にいるのか。
ミカエルには十日間という時間の制限がある。その間にルシファーを見つけ、滅ぼさなければならない。悠長にしている暇はないのだが、ルシファーの手がかりが無いとなると、非常に困る。
「ここ王都にはシールドが張ってある。俺が認めた者しか入れない」
アリソンはそう言ってから、少し思案する素振りを見せていたのだが、ミカエルは気づかずにいた。
「王都ってどれくらいの広さ?」
アリソンは少し唸る。
「そうだな……。人間界で言えばだいたい日本の約二倍から三倍くらいか」
「約三倍ほど……」
結構な広さだとミカエルは素直に驚いた。しかし人間界は地球という有限の地の上で暮らしている。魔界はどうなのか。天界のように無限の空間だと考えた時は、そうでもないのかもしれないが。アリソンからもらった情報ではそこが不明瞭だったのだ。
「ありがと。時間取らせてごめん。とにかく早く行かなきゃだな」
気になることは多々あるが、ミカエルはとりあえず先に城へ向かう事を優先しようと思った。
「そのようなこと、ミカは気にしなくていいが、顔だけでも早く見せておくか」
アリソンは移動するために今度はミカエルの手を握った。そしてミカエルは空いている手で腰に差した神剣に触れる。自分には課せられた使命がある。それを決して忘れてはならない。ミカエルは改めて気を引きしめた。
二人は再び青い光に包まれて、一瞬で城内へとテレポートする。異空間の移動ではないために身体の負荷は全くなく、気づけば城内という状態だった。
「陛下! ミカ様!」
いきなり目に飛び込んできたのはラルフだった。しかもラルフは感動し過ぎて泣きたいのか笑顔を見せたいのか、とにかく忙しい表情になりながら二人の前で跪く。
魔界では離れていた時間といっても数十分程だろう。アリソンがどれだけ愛されているのかがよく分かる図だが……。
隣ではアリソンが呆れたようにため息を吐いている。ラルフには気づかれていませんようにと、祈るミカエルがいた。
そしてミカエルは周囲をそっと伺う。ここは謁見の間だろうか。中規模のパーティが開けそうな広間の一角に、真っ赤で上質な生地だと分かる天幕がある。そこに鎮座するは玉座。重厚感のあるゴールドの浮き彫りに縁取られた背面と座面は、漆黒で上品な光沢があった。
あそこに歴代の魔王が座ってきた。そして今はアリソンだけが座ることを許された特別な椅子だ。
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