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第92話

 ミカエルの左右斜め前にヘンリーとエイダンが固め、アリソンはミカエルの右隣に並ぶ。  ライカンの残りのメンバーらも人型へと変わっていく。これは恐らく今は攻撃はしないという意味合いも兼ねて、魔王に敬意を表しているのかもしれない。 「最近ルシファーサタンが目覚めたというのはご存知ですか?」 「えぇ、もちろん知っておりますよ。ヴァンパイア共が、ルシファーが目覚める数日前から煩く騒いでたようですしね。そもそもルシファーが実在していたとは驚きですよ。架空の存在を崇め奉るヴァンパイア共の気が知れないと、我々も笑っていたのですがね」  ヴァンパイアと人狼が敵対しているという話は、人間だった時によく映画や本で見た。それがリアルな魔界でもライカンの口調からして、ヴァンパイアとは相容れぬ間柄のようだと知り、ミカエルは秘かに驚いていた。 「何処にいるのかご存知ですか?」  ミカエルがそう訊ねると、ライカンのリーダーは何か思案する素振りを見せた。右斜め前にいるエイダンが、気に食わないと露骨に舌打ちをする。 「ヴァンパイア共の本拠となる地をお教えしてもいいですが、その理由をお訊ねしても?」 「ルシファーを滅するためにです」  ミカエルが毅然と言うと、リーダーは一瞬瞠目したが、直ぐに唇が弧を描いた。 「それはそれは……なかなか頼もしい。王妃様がルシファー退治とは」  リーダーの後ろを固めるライカンらも、ざわめいている。 「おい、言葉を慎め。不敬罪に処するぞ」  ヘンリーは腰からセイバーを抜き、その刃先をリーダーへと向ける。ミカエルは直ぐにヘンリーの右手に触れて、セイバーを下ろさせた。 「ミカ様」  王族としての誇りがあるヘンリーにとっては、許せない言動だったのだろう。しかし、今のミカエルは僅かな情報でも欲しかった。相手がどんな態度であろうと、教えてもらった情報には感謝したい。 「すみませんヘンリーさん。大丈夫ですので」 「承知致しました」  ヘンリーはミカエルに頭を下げ、素直にセイバーを腰に差す。その時、ミカエルは今の一連の流れで、ヘンリーの取った言動の意味が分かった。  天使という異種族な上、敵対もしているが、ミカエルは皆から認められた王妃である事を示したかった。魔王軍のトップ中のトップ、元帥がミカエルの指示に従順に従う。その様を見せたかったのだろう。現にライカンらのミカエルを見る目が変わっていた。 「ヴァンパイアの本拠地は、ポリノーズの最南端にございます。しかし奴らが本拠地にいるのは稀ですね。我々も様子を探らせてはいますが、向こうも警戒して本拠地には集まらず、転々としているようです」 「そうですか……。貴重な情報ありがとうございます」  本拠地が分かっただけでも、かなりの有益な情報だ。ミカエルはリーダーに頭を下げた。瞬時に周りが再びざわつくが、ミカエルの思考は完全にルシファーにあった。 (隠れたって、必ず見つけ出してやる)  ミカエルが彼方の空を睨むように見上げていると、ふいにライカンらが一斉に動いた。

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