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第91話
次に向かったのは、城から西方面にあるヴォルトフ地区へ四人はテレポートした。
「っ!」
着いた刹那に何かが飛び掛ってきた。ミカエルは瞬時に神剣を抜くが、それよりも速くアリソンら三人が動いた。
ヘンリーとエイダンは、すぐに襲ってきた何かを弾き飛ばす。アリソンはミカエルを護るために、数メートル先にテレポートしていた。アリソンらがいなかったら、こんなに素早い攻撃を躱せなかっただろう。
何が襲ってきたのか、ミカエルは周囲に視線を走らせようとしたが、それは直ぐに視認できた。
ヴォルトフはほぼ砂に覆われた砂漠地帯だ。所々に木々は生えているが、身を隠す場所はない。
ミカエルらは、赤く光る目に取り囲まれていた。
「ライカン の賊か」
「これはこれは、魔王様ではないですか。何故このような地に?」
一人のリーダーらしき男が一歩前へ出て、宙に浮く四人を仰ぎ見る。その姿はまさに狼男と言える風貌。二足歩行で全身は体毛に覆われ、顔は狼と表現するにはあまりにもかけ離れ、グロテスクと表現したくなるものだった。見た目だけでかなりのインパクトがあり、ミカエルは一人息を呑んでいた。
「王に直接話しかけるなど無礼にも程がある」
エイダンが怒りの声を上げるが、アリソンは「よい」とエイダンを下がらせた。
「色んな地を流れていると、色んな噂を聞くが……。本当に天使を妃に迎えるとは、いやはや驚きましたね」
飄々とした口調で言いながら、ライカンのリーダーはミカエルをまじまじと見る。
「あなた方にお聞きしたいことがあります」
ミカエルは下降しながらライカンに問う。しかしアリソンは行かせまいとミカエルの腕を掴んで引き戻す。
「ミカ!」
「話を聞くのに、上からとか失礼だろ?」
失礼も何もアリソンらは魔王と王族のため、彼らに遜 る必要はない。しかしだからと言って、偉そうな言動は慎むべきだとミカエルは思った。そこは魔族と天界人との認識の違いがあるのかもしれない。悪魔の王は強さと恐怖の対象でもあるだろうから。
アリソンも思うところがあったのか、ミカエルの腕を離した。
「話とは何でしょう。王妃様」
ミカエルが地に足を着けると、ライカンのリーダーの身体に異変が起きた。みるみると体毛が消えていき、顔の造形も変わっていく。
ついに人型となったライカンは魔法か何かを使っているのか、服は身に着けていた。
人間界で見たようなミリタリー系ファッションと言えばいいのか、カーゴパンツに編み上げブーツと動きやすい服装ながらも、どこか高潔さを感じた。
人型のライカンは、狼男の姿とは雲泥の差だ。眩い金髪に、ハリウッドスターが紛れ込んできたのかと思うほどに、ハンサムな男がミカエルの目の前にいた。
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