123 / 123

最終話

 翌日は謁見の間で、ラルフ、ヘンリーの家族、エイダンの家族、侍従長リアム、王妃付き女官長、大臣、王軍の各隊長、そしてアルベルトなど錚々(そうそう)たる顔ぶれがミカのために集まってくれた。  ヘンリーの家族は奥方と、子供が男の子二人。エイダンの家族は奥方と女の子が一人。どちらの子供もまだ小さく、ミカを気に入ってかなり懐いてくれた。子供はやはりとても可愛いと、ミカの目尻は終始下がったままだった。自分にも、もし子供が出来たらと重ねて見てしまい、微笑ましく幸せな一時を過ごせた。  アルベルトは側近の二人を連れて、元気な姿を見せてくれた。いつも危機的状況時に助けてくれた彼らに、ミカは何か願いはないかと問うた。物による褒美は、彼らは絶対に受け取らないだろうと思ったからだ。そして願いならと、アルベルトは望みを口にしてくれた。それは正式に王妃直属の近衛兵として、どんな時でもミカの力になりたいと言ってくれたのだ。それはもうミカの方が褒美をもらったようなものだった。しかしアルベルトは、ミカのために仕えることが出来る方が幸せだと言う。  とても嬉しい申し出に、ミカはアリソンの許可をもらい、ライカンスロープは王妃専属の近衛隊となったのだ。  孤高のライカンスロープが王族に付くという報せは瞬く間に広がり、魔界中が湧いた。そしてこの事は、魔界の歴史に深くいつまでも語り継がれていったという……。 「では、そろそろ行こうか。我が妃よ」 「はい」  アリソンが眩しい程の笑顔でミカへと右手を差し出す。ミカは、はにかみながら左手を出した。  真魔城の高い位置にあるバルコニー。人間界でも見たような光景を、まさか自分も経験する事になるとはと、ミカは一人こっそりと笑った。  ミカとアリソンが姿を現すと、待ってましたと言わんばかりに王都が揺れた。 「アリソン王おめでとうございます!!」 「ミカ様おめでとうございます!!」  魔界中の者が全て集まったのではと思うほどに、城下には民衆で溢れかえっていた。  ミカとアリソンが手を振ると、歓喜の声が上がる。  空には鳥獣が旋回し、二人を祝福して鳴いている。そして黒龍のレオンも姿を見せ、尾を振りながら空を悠々と泳いでいた。 《魔王様、ミカ様おめでとうございます》 「レオーン! ありがとう!」  皆に祝福され、ミカの胸はいっぱいになる。  幸せだ。隣を見上げれば愛しい夫がいる。もうルシファーに囚われること無く、魔族の平和をアリソンと共に築いていける。  本当に幸せだ。 「ミカ、愛してる。また落ち着いたら子作りしよう」 「アリソン……でも……」  ミカの不安を消すように、アリソンはそっとミカに唇を重ねた。  魔王と王妃のキスに、民衆から歓喜と黄色い声が割れんばかりに上がる。  そしてアリソンがキスを解くと、ミカの耳元に唇を寄せた。 「魔界へ来る前に神が俺だけに伝えてきた。天使は両性具有だが、堕天使になっても身体の構造は変えないと。俺はミカが隣にいれば幸せだから、子供のことはあまり頭になかったが、兄上たちの子供と触れ合ってるミカを見て、子供はやはり宝かと思った。ミカと俺の子供なら最高に可愛いぞ」  アリソンは本当に心から楽しみだと、目尻と眉を大きく下げてミカに笑顔を向けた。  ミカはあまりの嬉しさで震える唇を噛み締めながらも、頬を伝う涙は途切れることを知らなかった。  「アリソン愛してる!」  ミカが漆黒の羽を大きく広げ、アリソンへと抱きつく。真っ白な衣に、真っ黒な羽。そのコントラストがとても美しく、全ての者が見惚れ、魅了された。  二人の仲睦まじい姿は民衆の心を大きく掴み、歴史に名を残す二人となるだろう。  いつまでも、二人の愛は永遠不滅なのだと──。 END

ともだちにシェアしよう!