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第8話
朝? もう昼?
目を覚ますと、既に巧さんは居なかった。
だだっ広いベッドの隅で、思わずため息を吐いてしまう。ここに巧さんが居ないってことは、俺は巧さんに気に入られる計画に失敗したんだ!
確かに、俺ばっかり気持ち良くなっていたような気もするけど、あれは巧さんがあの手この手で俺を開発しようとするからであって……ていうかあの人ナマでヤったよね?! ゴムあったのに……! ゴムつけない男、最低だ! 絶対モテない! いや、顔でカバー出来るのか……イケメンだし……腹立つな。
よく女の子がヤリ捨てされた! と怒るけれど俺の現状がまさにそう。まさかのヤリ捨て。色々初体験だよ! 二度とごめんだ……!
なんだか惨めで、胸が痛かった。
……まあ胸だけじゃなく、あらぬ所がものすご〜く痛かったりするんだけど……まだ尻に何か突き刺さっている感じがする。よくあんな凶器が入ったな。
巧さんの性器の大きさを思い出したら、急に自分の肛門が閉じているが不安になり尻に手を這わした。
ああ、良かった……ちゃんと閉じてる……。
はぁ、ベッドに居ても俺の掛けは無くならないし、諦めてはやくここから出て208万円を稼ぐしか残された道はない。
……めちゃくちゃ嫌だけど。幸いにも俺には尻でも気持ちよくなれるみたいだから、意外と風俗でも楽しくやれるかもしれない! そしたらこんな金額、あっという間に返せる! なーんて! ハハ! 泣いてなんかないっ!
痛む尻を庇いながらベッドルームを出ると、部屋を解錠する音が聞こえて巧さんが戻ってきた。……あれ? ヤリ捨てじゃない……?
「おはよう、葵くん。身体は大丈夫?」
「おはようございます。大丈夫です」
「それは良かった。お腹空いてない? 朝食貰おうか」
「! 良いんですか?」
さっきまでは気付かなかったけど、ご飯と聞いたら急激に空腹が襲って来る。そういえば昨日の営業前に少し食べてから、何も食べていなかった。
「すぐ持ってきてもらうね」
目の前には美味しそうな朝食が並ぶ。思わずがっついて食べてしまうと、目の前に座る巧さんがクスクス笑うので恥ずかしくなった。
「ねえ葵くん。君の掛け208万円、俺が立て替えてあげようか?」
「! ほんとですか?!」
「うん。でも〝立て替える〟だけだよ」
……ん? ってことは巧さんにお金を借りるってこと? 巧さんって八神組の若頭……補佐? なんだよね? 巧さんにお金を借りる=ヤクザからお金借りるってことじゃん……?
「闇金……! トイチ……?!」
「あはは、違うよ葵くん。組からお金を借りるんじゃない、俺個人から借りるんだ。このお金は俺のポケットマネーだから安心して。利子はつけないよ」
「利子……」
「うん、つけない。支払い方法は、葵くんとまたこんな風に一晩過ごせたらその時間を10万で買うよ。葵くんは今のままホストを続けて、週一、二ぐらいで俺と会ってくれたらすぐに返済出来るんじゃない? 悪くないでしょ?」
「……じゅうまんえん」
「そ、10万円。今日の分引いてあと198万円! すぐ返せちゃうね。どう?」
「よ、よろしくお願いします!!」
俺は思わず頭を下げる。
巧さんと会ったばかりなのに、俺に嘘をついたり、本当に酷いことはしてこなさそうと、何故かそう思えた。
フハハ! 神は俺を見捨ててはいなかった!
「こちらこそよろしく、葵くん」
スッと差し出された手を、俺は強く握り返した。
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