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第9話

「ご馳走様でした」  巧さんに笑顔で見守られつつ、美味しい朝食を食べ終えた。 「俺、店長に連絡してきます」 「大丈夫だよ、さっき俺が連絡したから」 「! ありがとうございます……」  昼過ぎに迎えにくると言っていたので店長に連絡した方がいいと思ったが、既に巧さんが連絡してくれていたみたいだ。  出来る男感が凄い……いや、組で役職? を貰っているぐらいだから、きっと相当出来る男なんだろうけど……。 「今日はお休みして良いよって言ってたよ。また明日から出勤してね、だってさ」 「何から何まですみません……」 「いいよ。昨日の葵くんの身体に無理させたの俺だし」  物凄い笑顔で言われて、言葉に詰まった。……何でちょっと嬉しそうなの?  俺を抱き抱えた巧さんは、ぽすん、とベッドに寝転がる。 「今日も一緒に居ようね」  耳元で囁いた巧さんの声が、なんていうか、ちょっとエロかった。  声が震えないように、「はい」と小さく返事をする。 「葵くんはいつからあの店で働いてたの?」 「四年前からです。……高校卒業してすぐに就職したんですけど、そこが凄いブラック企業だったんですぐに辞めてあの店で働いてるんです」 「そうなんだ……大変だったんだね」  巧さんの腕にぐっと力がこもる。  研修期間が終わって実際の業務が始まってからすぐに辞めたので、家族すらも『もうちょっと頑張ってみたら?』『どこもそんなもんだよ。せっかく就職出来たのにもったいない』なんて、誰も俺の身体や心の心配より、俺の体裁を心配した。『根性ないな』その言葉、会社でも怒鳴られたよ。そこから家族との関係は疎遠になった。  とりあえず働こう、出来れば寮があるとこが良いと思いながらフラフラと歩いていたら、このホストクラブ〝K〟の看板を見て、気付いたら電話を掛けていた。そのままとんとん拍子で今に至る。  聞いて楽しい話でもないから誰にもしないし、しようとすら思わなかったのに、何故か巧さんの前では自然と話してしまった。  巧さんが〝俺〟を労ってくれたのが、会話の流れで出た言葉だとしても、嬉しかった。 「巧さん……」  俺からも巧さんをギュッと抱き締める。  巧さんの顔が思ったより近くにあって、吸い寄せられるようにくちづけた。 「ふっ、積極的だね」 「……揶揄わないで下さい」  子供のようなキスに、巧さんが笑った。

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