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第31話
あの日を境に、巧さんと食事や買い物にも行くようになった。
この間は個室の鉄板焼きに連れて行ってもらい、どの料理を食べても美味しくて頬が緩みっぱなしだった。
個室と言っても料理人が目の前で焼いてくれるスタイルだったので結局緊張したけど……。
この時俺は、何着てこようか迷ったんです、スーツだって数着しか持ってないし……とぽろっとこぼしてしまい、「じゃあ次は葵くんの服を買いに行こうか」と巧さんが言ってくれた。
巧さんが懇意にしているお店に連れて行かれて、言われるがまま採寸をして生地や形は巧さんがポンポンと決めていき、俺はいつのまにかフルオーダーのスーツを注文していた。
口を挟む隙も無かった……!
フルオーダーって絶対高い……、ましてや巧さんの御用達だし……!
値段は怖くて聞いていない。
巧さんは気にしなくて良いと言ってくれたけど、やっぱり後で借金にスーツ代も追加しとくね! と言われないかヒヤヒヤしている……。
スーツを購入した後に、「次は私服だね」とハイブランドの店に入ろうとした時は流石に全力で止めた。
あまりの俺の必死さに、巧さんはしぶしぶ引き下がってくれた。
しかも、毎回セックスする度に感度が上がっているような気がしてめちゃくちゃ恐ろしい。
俺の身体、どうなっちゃってる?!
そして巧さんも、嬉々として俺の身体を開発している。
これ以上敏感になってしまったら困るから、切実にやめて欲しい。
「はぁ……」
気が付いたら巧さんの事を考えてしまう。
ちらっと見た俺の携帯は、新着メッセージのお知らせは来ていない。
208万円あった俺の借金も、あと120万円になった。あと十二回巧さんと会ったら終わり。
そう思うとちょっと寂しくなる。
十三回目があるかどうかわからないけど、あったらいいな、と思っている。
でも、巧さんぐらいかっこいいとセフレいっぱいいそう……。
借金分セックスしたら、それでハイ、さようならかと思うと、胸がズキズキと痛んだ。
「なーにため息ついてるの?」
「て、店長……!」
最近は、仕事中でも巧さんのことを考えてしまう。
「ほらほら元気出して! 指名来たよ〜! まりあちゃん!」
「はい、今行きます!」
まりあちゃんは俺を本指名してくれる姫だけど、俺は所謂サブ担というヤツで、本命の担当は別のお店にいる。
本担と喧嘩した時、ただただ惚気たい時に、ふらっと現れる。
巧さんのことばっかり考えてちゃダメだ! 気合を入れるために頬をぺちんと叩いた。
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