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第42話
朝、目を開けると俺の髪の毛を弄っている巧さんが視界に映る。
「おはよう、葵くん」
「おはようございます」
はぁ、カッコいい、好きだ。あの後何度もお互いを求めて、意識が無くなるまで行為に没頭していた。
声は擦れているし、身体はボロボロだけど心は満たされている。
巧さんが髪の毛を掻き分けて額にキスを落とすと、また心臓がきゅんとした。
俺は単純だから、一回好意を自覚してしまうとどんどん好きになってしまう……恐ろしい……!
「……はっ!! スーツ!!!!」
幸せにまどろんでいたが、その時間はそう長くなかった。
やばい、スーツ! 昨日部屋に入ってすぐそこら辺に脱ぎ捨ててシャツなんかぐちゃぐちゃになっていた気が……!
せっかく買ってもらったのに……!
「そんな焦らなくても大丈夫。クリーニング出したから、もう戻ってくるよ」
「買ったばっかりなのにすみません……」
「いいよ。俺も悪いしね?」
クスクス笑う巧さん。俺は昨日のことを思い出して、赤面する。
意外と着衣プレイみたいなのが好きなんだろうか。
「巧さんのへんたい……」
「じゃあ俺とセックスしてイきまくってた誰かさんも変態だ」
「も〜!!」
葵くんは牛になったの? と笑う巧さんに背を向けて布団に潜る。けれどすぐに布団ごと抱きしめられた。
「俺の買ったスーツ、お店でも着てね」
「もったいなくないですか? 汚したら嫌だし……」
「着ない方が勿体ないよ? よし、今度見にいこうかな」
「え? 来るんですか? ホストですよ?」
「俺一応オーナーなんだけど。流石に知ってるよ」
あっ、そうか。巧さんが俺の働く「K」のオーナーなこと、すっかり忘れていた……!
「今日は無理かな。明後日なら夜空いてるから客としてこっそり行こうかな」
「オーナーなのに良いんですか?」
さすがに冗談だと思うけれど、思わず聞いてしまう。
「俺の顔知ってるのアイツしかいないし大丈夫大丈夫」
「アイツって……店長だけしか巧さんのこと知らないんですか?」
「そう。あー、同伴は時間的にキツいかな。普通に行くよ」
「えっ、本当に来るんですか?!」
巧さんが来店して、俺と同じ席に座っていたら思わずどっちがホスト? って聞きたくなるだろう。
みんな十中八九巧さんと答えるだろうし、好奇心旺盛なお客様だったら、あそこのイケメンはキャスト? 私の卓にもついて欲しいなんて言われかねない。
そんなこと言われたら嫉妬する。巧さんが女の人とイチャイチャしてるとこなんか見たくないぞ俺は!
「もちろん、ちゃんとスーツ着て来てね? あと被りとヘルプいらないから」
「巧さん……、それを言うお客様は痛客認定されますよ?」
「痛客って……ひどいなぁ葵くんは。ヘルプに着く子が可哀想でしょ?」
「確かに。抜き打ちでオーナーに面談されてるようなものですね」
「そう、だから俺はいいの」
楽しみだなぁ、と言って笑う巧さん。
……冗談だよね? 本気で来ないよね……?
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