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プロローグ

 「彼」との出会いは、たまたま開いた一つのだった。  僕の大学がある地域は所謂学生街で、午後の講義を終えた後、帰宅ラッシュで狭苦しい電車の中はいつも地獄だった。それをやり過ごす一つの手段として、動画投稿サイトの検索欄に「雑談」と打ち込んで、ラジオ感覚でそれを聞くのが最近のマイブームで、その日も、電車を待つ途中、サムネイルがおしゃれで目を引いたアーカイブを適当にタップした。  イヤホンから流れ出したBGMは、カフェで流れているようなジャズ。趣味のいい写真のスライドショーに「SOUND ONLY」のテロップと、曲名らしき英文のみで形作られた配信画面。  今時珍しいな……なんて思いつつ、これなら混雑の中でも音に集中できてありがたいと、ポケットにスマホをしまう。  数十秒ほどして、ようやく配信主の声が乗った。 『こんばんは皆さん。今日もお疲れ様です。』  男性だ。柔らかくて、少し掠れたような、低すぎず高すぎず丁度いい甘い雰囲気の声。それでいて発音は滑らかで聞き取りやすい。語り口も落ち着いていて……あ、これなんか寝れそうだな。 『……それで、今日は隣の街で服買うついでに路地を散策してみたんですけど。めちゃくちゃ美味しそうなラーメン屋さんを見つけまして……あ、今日の夕飯ラーメンでもいいななんて思って、でも昨日もラーメンだったんで許されるかなこれとか、カロリーやばいかもなぁなんて……頭の中ではストッパー効いてるんですけど、つい香りに釣られてふらふらって看板前まで行っちゃって』 『ほら、外にメニュー置いてあるお店ってあるじゃないですか。入口の所。オレそういうの見つけるとつい開いちゃうんですよ。で、見てたらラーメンも美味しそうだけど、炒飯の写真がね……もう、そのままコレ出てきたら最高だろうなってぐらいのドストライクで。見入っちゃってたんですよね。そしたら店員さんが……』  雰囲気は落ち着いてるのに、随分と楽しそうに話すなぁこの人。くすりと、笑みを誘うような、何気ないエピソード。この人の配信、結構好きかもしれないな……とポケットの隙間から画面を盗み見る。名前は……「KU-TO」。アイコンは深い青からミントカラーのグラデーションのみ。登録者数は三桁にぎりぎり届かないぐらいで、その横で赤く主張するチャンネル登録のボタンを、掘り出し物を見つけた時のワクワク感のままにそっと、押したのだった。

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