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第4話
協調性は一切なく、ただひとり黙々と仕事をしては、誰よりも大きな成果を残す。仲良くなろうと誰かが話しかけても、こちらが思わず怯んでしまうほどの冷たい目で眺めるだけだ。そんな態度では到底周囲とうまくいくはずがない。当初歓迎ムードだったのは一転、進んで瀬戸に関わりたいと思う者は誰もいなくなった。
ただ、才能は間違いなくある。実際、瀬戸がこの事務所に入ってから、海外で大きな賞を獲得した彼の作品が、エントランスに笠井の作品と並べて飾られてある。その作品を目にするたびに、犬飼はいつも本物の才能がどういうものであるかを思い知らされる。
犬飼にはある忘れられない広告がある。それは犬飼がまだこの仕事に就いて間もないころ、出勤途中に見かけた駅貼りのポスターだった。
駅の構内でそのポスターを見かけるたびに、いつもはっと目を奪われた。朝の殺伐とした風景の中に、まるでそこだけ鮮やかに色づくように、一瞬にして景色が変わった。ぼんやりとしていた頭が冴え渡り、思わず足を止めてしまう。
ポスターの内容はシーズン毎に変わった。変わらないのは、目を引く美しい風景写真の中に、短いキャッチコピーが入っていることだ。それが毎回、そうだ、そうだよなあと思わず膝を打ってしまうほどに、ぴったりとくる。いまこの瞬間、それまで自分でも気づかなかった気持ちに気づかされるように、はっとしてしまう。まるで心の中を見透かされたような気持ちになる。
ポスターの中で肝心の商品は風景に溶け込むようにさりげなく添えられているだけだ。常識で考えたら広告写真としては成り立たっていない。高い金を出して、自分のところの商品が目立たない広告を出すスポンサーなどいないからだ。それなのに、そのポスターは何よりも雄弁に見る人の胸を打つ。
本物の才能の前には、努力など適わない――。
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