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第17話

 突然、ガタンとした物音に驚いて振り返ると、向井の足元に転がったゴミ箱から丸めた反故紙が散らばっているのが見えた。 「ああ、くそっ」  向井はくしゃくしゃと後ろ髪をかき混ぜると、ゴミ箱を直し、散らばったゴミを片付けた。何事もなかったようにそれぞれの作業に戻るスタッフの中で、犬飼は席から立ち上がっていた。  ここ最近ずっと、向井の調子が悪いことには気づいていた。前から落ち込んだときははっきりと態度に表れるやつではあったが、自分の能力に自信があった分、その反動は大きいようだ。安西さんのところの仕事から外れたあと、スランプに陥ったように、ほかの仕事でもうまくいっていない。いつもぴりぴりと何かに苛立っている。  新しくコーヒーを入れ、向井の席へと向う。 「向井、大丈夫か」  犬飼としては、少しは気分転換をしたほうがいいと言ったつもりだったのに、向井はそんな犬飼をちらっと見たあと、唇を噛みしめると、「すみません、ちゃんとできますから」またすぐに手元の仕事に戻ってしまった。パソコンの画面を睨む横顔は硬いままだ。 「……そうか、あまり無理するなよ」  ため息を吐きたくなる気持ちを堪えつつ、向井のために入れたコーヒーを手に自席へと戻る。少し離れた場所から、瀬戸がこちらを見ているのに気がついた。無表情な顔からは、相変わらず瀬戸が何を考えているのかわからない。またどうせよけいなお節介をしていると思われているのだろうなと感じつつ、入れたばかりのコーヒーを飲む。  瀬戸はいつも通り淡々と仕事をこなしているが、向井のほうはそろそろ限界に達している。わざと苛立ちを見せているわけではないのだろうが、もともと考えていることがそのまま態度に出るやつなので、その影響は決して小さくはない。他人同士が同じ職場で一緒に仕事をしているのだ、どうやったって影響は受ける。まあ、一部の例外をのぞいて……。最終的に安西さんのところの仕事から向井を外したのは、犬飼の判断だった。  少なくとも仕事の上では瀬戸に問題はない。犬飼がデザインのことで瀬戸にアドバイスできることなど何もないだろう。ただ、この悪環境に瀬戸がまったく関係していないとは犬飼も言えない。  でもなあ、あいつは俺が言って素直に聞くようなタマじゃないしなあ……。

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