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第28話

 まったく賛同しかねることを言われて、犬飼はむっとした。この世界でクロほどかわいい生き物はいないと思う。 「そうだ、お前、あれだろ。焼きもちを焼いてるんだろう。自分が好かれていないからって妙な因縁をつけるなよな。なあ、クロ?」  艶やかな黒い毛をくしゃくしゃっと撫で、クロの鼻の頭に自分の鼻をよせる。犬飼の指摘が当たっていたのか、瀬戸にしては珍しく驚いた表情を浮かべたあと、やがて呆れたようにため息を吐いた。 「犬飼さんて鈍いですよね」 「なんでだよ。お前、図星をさされたからってひとに当たるなよな」 「……ええ、もうそれでいいです。ほら、早く食べないとせっかくの料理が冷めますよ」 「もともと俺が作ったんだよ!」 「はいはいそうですね」 「……なんだかむかつくやつだな」  まるで犬飼のほうがおかしなことを言っているかのように軽くあしらわれて、釈然としない気持ちになる。まったく意味がわからないやつだな、と憤慨しながら、犬飼は言葉ほどに腹を立ててはいない自分に気づいていた。それどころか瀬戸とのやり取りを楽しんでいる。正直、少し前の自分だったら、瀬戸とこんなふうにバカみたいにくだらないことを言い合える日がくるとは思わなかっただろう。 「そういえば、お前なんでKプロダクトに入ったの?」  今夜のメニューはエスニックだ。甘辛いタレで炒めたガーリックシュリンプの殻を指で剥きながら、犬飼は前から気になっていたことを訊ねた。 「何ですか、突然」 「いや、前から不思議に思って。笠井さんがお前を引っ張ってきたんだよな。以前から知り合いだったのか?」

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