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第41話
茫然とした表情で、まっすぐにその顔を見つめる犬飼に、瀬戸が眉根を寄せた。
そのときだった。犬飼のポケットの中でスマートフォンが震えた。着信相手は笠井からだった。
「笠井さんだ」
周囲を気にしながら、通話ボタンを押す。
「すみません、いま電車なので、駅に着いたらまたかけ直しま……」
「お前いまどこだ?」
間髪を入れずにそんな問いかけが返ってきて、犬飼は眉を顰める。
「笠井さん? どうしましたか、何かあったんですか?」
「AOCの仕事な、いったん白紙になった」
「えっ! それはどういうことですか!?」
ここが電車の中だということもすっかり忘れて、思わず声を上げる犬飼に、何か問題が起きたのがわかったのだろう、瀬戸が問いかけるような眼差しを向けてきた。
AOCの仕事はほぼ終わって、あとは正式な手続きと事務作業をいくつか残すだけだ。先方からも瀬戸のデザインに対して好意的な感想をいただいている。それがいまのいまになって白紙とはいったいどういうことだろう。
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