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広い会場、多くの人の声。 一気に緊張して微かに体が震える中、ただひたすらに進行役の手帳の人の声を拾っていく。 ヴァンも自分のためにこれだけの人が集まってる事に驚いてる様子で、でもそれでも堂々と胸を張りながら前を向いていた。 「それでは、アルヴァン殿!前へ」 「はい」 しっかり返事をして立ち上がったのが分かる。 ーーいよいよだ。 誰もが静かに見つめる中、コツ コツと一歩ずつ前に進んでいくヴァン。 (もう少し…もう少し……) この赤い絨毯の、真ん中まで来たらーー 「……………ッ!!」 「……? リフィー、どうしtーー」 ドスッ! 夢で見た通り、何処からか放たれた一本の矢。 それが、真っ直ぐにヴァンの心臓へと突き刺さった。 「キャー!!」「何だ……これは!!」 「何が起こってる!?」「あいつだ!捕らえろ!!」 一気に騒がしくなる群衆。 その群れを掻き分けて、「アルヴァン様!!」と夢で聞いた同じ声でロルドさんが駆け寄ってきた。 「アルヴァン様…アルヴァン様っ!」 「ぃ、いや……俺は無事だ…衝撃で倒れただけ、で…… でも………!」 バサリとマントを脱ぎ捨てて、矢が刺さってる部分を見る。 「リフィーが……!!」 矢が放たれる瞬間、思いっきり体に力を込めた。 その所為でヴァンに少し怪しまれてしまったけど、でも。 (よか、た…お腹の中で、止まっ、てる……) 下を見ると、矢は僕を貫通してヴァンに刺さっていなかった。 (良かった……本当によかっ、) 「リフィー!!」 ガバリとポケットから出されて、暖かい掌に乗せられる。 「リフィー、リフィー…リフィル!! ロルドっ、早く医師を……それから薬師も!!」 ざわざわ辺りがうるさい中、ヴァンの声だけはよく聞こえて。 「ロルド!!」 「無理…です……我々では、竜を…それもこんなに小さい子竜を治す事は、出来ません……っ」 「ーーっ! 頼むよ…なぁ!!!!」 パタリと、熱い何かが落ちてきた。 薄っすら目を開けると、それはヴァンの目からどんどん溢れてきてて。 「キュ……」 (泣かないで、ヴァン) 「っ、リ、フィ、」 重い身体を何とか動かしながら、いつかの日のように親指にすりすり擦り寄った。 (大丈夫だから、泣かないで?) 大人の竜だったらもっといい方法知ってたかもしれない。 でも僕はまだ子どもだから、矢を射った人の顔すら夢で見ることができなくて…… でもね、仕立て屋さんがポケットを消さずに付けてくれてて安心したんだ。 ーーあぁ。これなら、僕でも守れるなぁって。 「っ!ま、さかお前…予知、してたのか……?」 「そんな…国竜の特殊能力は大人にならないと開花されない筈。まさかこんな子どもの時からなど…… という事は、これまでのも…全て……!」 「!! ぅそ…だ………」 2人が何かを話してるけど…もう、僕にはよく聞こえない。 (ねぇ、ヴァン) 僕、名前通りにちゃんとできたかなぁ? 『俺の大好きな本に出てくる主人公の名前なんだっ! かっこいいんだぜ!? 強くて勇敢で、大切な人の為に戦うんだ!!』 君が嬉しそうに付けてくれた、大好きなその本の主人公みたいに、 僕も、勇敢に大切な人を守れたかな? 「リフィル!!」 (そうだと…いいなぁ……) 「リフィル、リフィル嫌だ…目を閉じるな……おい!!」 大好きな声と大好きな体温がこんなにも近くにあって。 嬉しくて幸せで……泣きたくないのに涙が出てくる。 (ヴァン 今日は本当におめでとうっ) 今日から君も大人の仲間入りだね。 君が大人になってしまうのはちょっぴり寂しいけど、でもそれ以上にすっごく嬉しいんだ。 きっと、びっくりするくらいかっこいい王子様になるよ。 そうして立派な……お父さんやロルドさんや誰もが認める王様にも、なれる。絶対に。 この国は、僕の種類がいなくなっても大丈夫 他にも国竜は生息してる。 だから、きっときっと……君の未来は明るいよ。 僕に降り注ぐ暖かい涙は、止むことはなくて 震える指先が、ゆっくりと頬を撫でてくれる。 (ヴァン、ありがと……) あの日、両親の骸に押し潰されてたのを見つけ出してくれてありがとう。 名前をくれて、独りぼっちの僕と家族になってくれてありがとう。 いっぱいいっぱい遊んでくれて、ありがとう。 たくさん笑って、たくさん眠って……そんな日々をたくさんたくさん一緒に過ごしてーー めいいっぱいの幸せを、ありがとう。 僕ね? もし天国でお母さんとお父さんに会えたら、いっぱい君のことお話しするんだ。きっと喜んで聞いてくれると思う。 「大切にしてくれてありがとう」って。 だから、だからね? (あぁ、もうなんだか眠いなぁ) 「リ、フィ…逝くな……頼む…頼むから……… まだまだ、遊び足りないだろっ? こんなさよなら…俺やだよっ。お前がいなきゃ…おれはぁ……っ!」 「アルヴァン様……っ、」 ぼやけた視界に微かに映る、大好きな人。 それにえへへと笑って、感覚のないお腹に力を入れる。 ねぇ、ねぇ、ヴァン。 僕ね? 「…キュー………」 〝君のこと、大好きだよ。〟 「ーーーっ!! リフィ…お前、今……声、が………」 大丈夫。ヴァンはひとりじゃない。 ロルドさんやお城の人たちや、お父さんやお母さんがいる。 僕も、お空からお日さまと一緒にずっと見守ってるから。 だから……大丈夫だよ。 必死に叫んでくれてる僕の名前を聞きながら、大好きな人を目に焼き付けて ゆっくりと、目を閉じたーー (大好きな君へ。) (君の隣は、暖かくて幸せな場所でした。) (どうか、いつまでもずっと……君が笑っていますように。) *** アルヴァン・リフィル・ロルド fin.

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