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第1話 シェアハウスの一幕:管理人
東京にほど近い、でもちょっと田舎の、一軒家。
俺がその家に帰ると、同居人が二人いた。もう一人は出かけているようだ。仕事だろうか。
「あ、お帰りなさい。ご飯炊けてますよ。」
「あぁ、ありがとう。」
奥から聞こえてきたその声に軽く返事をすると、靴を脱ぎながら居間をかるく見渡した。台所の流しには、今朝から変わらず洗っていない食器の山の状態を見下す。
(まあ、今日は、こんなもんかな)
共同の寝室に上着を置くと、その奥の布団にぐっすり寝ている、もう一人の同居人の姿。昨夜はずっとネットゲームを続けていたからだろう。
冷蔵庫を覗くと、お惣菜の残りが小皿にラップにくるまれて二品残っていた。
晩御飯を食べ、軽くシャワーを済ませると、もうとっくに日が変わっている。明日も普通の時間で起きるので、今日はこのまま寝てしまおう。
物語の初めに声をかけた同居人は、オレが帰ってきてからずっとネット実況を続けている。
そして、朝。俺が起きる時間には、当然だがその同居人の実況は終わり、寝息を立てている。
その代わり、今度はネットゲームをしている方が、すでに起きてプレイしていた。
昨夜は帰っていなかったもう一人も、いまは布団の中で寝ている。
洗濯物の山は、明日の休みの時に片付けようか。そう思いながら俺は朝食を済ませて仕事に向かう。
* * *
ほかのシェアハウスの様子は分からないが、ウチでは、これは、普通の光景だ。
それぞれのメンバーは、それぞれに生きている。
外で働くも良し、家の中で稼ぐも良し、そして働かなくても、それも良し。
本当の意味での「自由に生きる」様子が、ここにあると思う。
そして、それが良いのか悪いのかは、当の本人が決めることだと、俺は考えている。
だから、同居人は、悩むことは少ない。
「どうしようか?」と迷うことを、俺は禁じているから。
悩む時間があったら、やれ。全部、やれ。その中から、成功したものを続ければいい。そう言っているから。
同居人たちは、いろんなハンデも持っている。その分、出来ることは少ないかもしれない。
だけど、出来ないことを出来るようになるより、出来ていることをやっていけば、それで生きていけるし、無駄がない。
このシェアハウスにいれば、住むところと食べるところはあるから。俺はそう言って、同居人たちを連れてきた。
みんな、ここに来て、伸び伸びと暮らしている。今までこんな楽に生活してこれなかった、と。
多少の生活スタイルは変わることはあるけれど、ここから出ていく人はいない。
ここが住みやすい場所だから、なんだろうなぁと思う。
他にも、ここのシェアハウスについて、書きたいことはあるが、とくに書くようなことはない。
他のシェアハウスも、いくつか見てきたことはあったが、ウチのシェアハウスは、ちょっと他とは違う。
「同居人は、やりたいことをする。」
オレが連れてきたときに、そう説明した。
「やりたくないことなんか、やらなければいい。やりたくないことなんか、時間の無駄だ。」
だから、同居人は、本人の思うように生活している。もちろん、オレも。
* * *
「ふぃーっと…」
シャワーを浴びて、水滴をタオルで拭いたら、居間の冷蔵庫の中を覗き込む。
たまには牛乳でも飲むか。オレ愛用の(以前、同居人から、誕生日プレゼントでもらった)マグカップに半分注いで、ゆっくり飲んだ。
後ろに視線を感じて、ひらっと振り返ると、同居人の一番若いのがこっちを見てた。今日は出かけてないんだな。
「…あの、…タオル…は…」
「ん?あ、ああ、なに?」
「あ、いえ、せめてなんか巻いていた方がいいかと…」
「ん?なに?」
「あ、…いえ…」
シャワー浴びたんだから、素っ裸なのは当たり前じゃないかなあ。それに男同士だし、おんなじモノ付いてるだけだぞ。そう言ってみたけど、若いのはなんかを気にしているみたいで、視線を逸している。
タオルは洗濯機に突っ込んでいる。もう洗濯がスタートしている。
オレは牛乳を飲み終えると、カップを置いて下着を履きにタンスに向かって歩いた。
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