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第16話 しゃべることって、ほとんどない:同居人R

このシェアハウスでは、同居人同士の会話というものが、ほとんど、ない。 僕はそれが、とってもありがたいと思っている。 吃音(きつおん)っていう、いわゆるドモリがあって、言いたいことが言葉にならなくて、次の言葉が出てこない、というもの。 普通の人だと、ぼくが言う途中で、次の言葉を出してさえぎってしまうくらい、 それくらいの間が開いてしまう。 だから言いたいことの3割も言えなくて、それで黙ってしまう。 だから、他の人と話はしたくない。 それで、普段から、会話というものがなくても、なに不自由しない。 だから、シェアハウスの中は、いつもシーンとしている。静かなものだ。 それが、ここでは、普通。 このシェアハウスでは、必要最低限の会話さえ出来れば、それで問題ない。 他のシェアハウスじゃなくて、本当に良かったと思う。 ドラマとか漫画とか、最近はシェアハウスのネタの話が出てくることを目にするが、 たいていは喋って問題が起きるネタばかり。 喋らなければ、なにも問題が起きないのに。 喋る必要がないここが、いま一番のお気に入りの場所。 ここで生活できるのが、とてもいい。 って、この話がドラマ化したら、僕のシーンはほぼ全部ナレーションになるだろうな。 一日中パソコンの前に座ってて、食事もパソコンの前で、疲れたら布団に入って寝るっていう、ある意味、他の人から見て「理想」な生活を送っているけど、ドラマにしたらたぶん、ぼくのシーンはつまらないと思う。しゃべることがないから。

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