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家族を迎えよう

 ちょっと相談したいことがあるんだ。そう由弦はリビングでくつろぐ同居人たちを前に、真剣な顔をして切り出した。  湊ほどではないが、それでも由弦という人間は非常に明るく爽やかで常に全力で人生を楽しんでいるような、喜怒哀楽がハッキリしている男だ。試験前でもなければ課題も既に終わっていて、同居人たちも含めて特に何かトラブルがあったという話も聞いていないというのに由弦が何かを思いつめているかのような顔をするので、テレビを見たりおやつを食べたりと自由に過ごしていた皆は、テレビを消して心配そうな顔をしながら由弦に向かい合った。 「どうした? 何か困りごと?」  思いつめたように俯く由弦に、湊が言いやすいよう促す。どうしようかとグルグル考えていた由弦は少しの間沈黙したが、胸の内で決意したのかバッと顔を上げて皆に視線を向けた。 「皆は、犬アレルギー持ってるとか犬が嫌いとかあるか!?」  緊張ゆえか常よりも大きい声で言われたその言葉に、問いかけられた皆は思わずポカンと口を半開きにして固まった。 「……え? 犬?」  予想もしていなかった言葉に思考停止していた蒼であったが、皆が固まっている以上誰かが口を開かなければ話は進まないし何もわかるまいと、どうにか声を出すが、やはり混乱が上回っているのかそれ以上の言葉が出てこない。そんな蒼の言葉に由弦はどこか必死にコクコクと頷いた。 「もし皆の中に犬アレルギーの人がいたり、嫌いだって言う人がいたら、毛を完全に取り除くなんて無理だし、存在も消せないから諦めるけど、もし皆が大丈夫なら、この家で犬を飼わせてほしいんだ。もちろん世話は俺がするし、病院とかエサ代とかも全部俺が出す! もし飼ったとしても絶対に皆には迷惑かけない! だから、駄目だろうか?」  必死に頼み込んでくる由弦の姿に、皆は顔を見合わせた。由弦は面倒見が良いし、おバカなところはあるが言ったことを覆すような人間ではない。それに孫命! な彼の祖父が遺言で彼にマンションを相続させているので、例え犬を十匹飼ったとしても全く問題ない収入はある。彼がこの家にルームシェアしているのは金銭面などではなく、ただ単に皆と一緒に居たいからなのだから。 「……とりあえず話を進めないと駄目だから、まずは訊かれたことに答えるけど、僕はアレルギーの類は無いし、犬も猫も好きだよ。実家では猫を飼ってたし」  雪也がそう言えば、他の皆も口々にその二つは大丈夫だ、問題ないと言う。ならば! と前のめりになる由弦に、雪也は彼の目の前に手のひらを突き出して待った、と言った。 「どうして急にそんな話になったのか、理由を聞かせてほしい。由弦が無責任だと思ったことは無いから、自分で言った以上世話もお金も自分で何とかするのはわかってるし、そこを心配しているわけじゃないけれど、相手は物じゃないし、思ってたのと違うからって捨てたり取り替えたりはできない。この家に命を迎えたいと言うなら、この家に住む僕たちもそれなりの覚悟を持たなくちゃいけないし、仮にも僕らは学生だ。無いとは思うけど、でももしペットショップに立ち寄って一目惚れして子犬を迎えたいと言うなら、犬の為にも一時のテンションで決めて良いことじゃないと僕は思う。だから、なんでそんなに思いつめたような顔をしてまで犬を迎えたいと思うのか、理由を教えてほしい。それが納得できるものなら、僕たちは一緒に住む家族みたいなものなんだから、一緒に世話もするし、お金だって協力する。愛情と責任を持って、由弦と一緒にその子を迎えると約束する。それと、この家は弥生先輩の家だけど、先輩に許可は取った?」  雪也の言うことは一見すると冷たく聞こえるかもしれない。だが、生き物を飼うということは命を迎えるということ。だからこそ、犬好きだよー、可愛いよねー、アレルギーも無いし飼っちゃおうよ! そうだね飼っちゃおう! なんて軽く返事をすることなどできない。それがわかっているから、皆は雪也の言葉に何を言うことなく由弦に視線を向けて応えを待った。由弦も雪也が冷たいのではなく、むしろ本気で向かい合ってくれているからこそだと理解しているので、もう一度深く椅子に座りなおして実は……、と話し始めた。 今回ちょっとだけ長いので分けます!

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