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第43話「煽る」

この前里音が買ってきた3人でお揃いのパーカーを着た。 最近これが2人の寝巻きになっている。 ブォーっと暖かい風を頭に受けながら、義人はそのパーカーの裾を少しだけ持ち上げて、鏡に映る自分の腹を眺めた。 藤崎は集中して義人の頭をドライヤーで乾かしている。 「、、、」 赤く鬱血した跡はそこに残ったままだけれど、頭の中ではもう菅原がそこに口をつけた記憶よりも、藤崎に丁寧に吸われて熱い吐息を溢したときの記憶で塗り替えられている。 (全部久遠に付けられた、、) 頭はそう理解していて、キスマークを眺めながら無意識に義人はとろんとした表情になってしまった。 「それわざと?」 「え?」 ブオンッとドライヤーの風が止まる。 藤崎が電源を切って洗面台についているコンセントからコードの根本を丁寧に抜き去り、折り畳んだ本体にぐるぐると巻き付けて洗濯機の上に置く。 「こら、そこじゃない」 「あーとーでーかーたーすーかーらー」 「あっ、ちょっと待て!」 ドライヤーを置くのは洗濯機の上にある部屋に備え付けの棚の中なのだが、藤崎はドライヤーだけはよくこうして色んなところに放って置いてしまう事があった。 熱が冷め切っていないものを棚にしまうのが感覚的に気持ちが悪いらしい。 洗濯のときに邪魔になるからとそれを棚に戻したかったが、後ろから藤崎に抱き締められ、首筋に鼻を押し当てて同じボディソープの匂いを吸われ、義人は「んんっ!」とくすぐったさに小さく声を上げた。 「いつからそんなにえっちになったの?」 「お前は何を言ってるんですか!?」 キスマークを鏡越しに嬉しそうに眺め、先程風呂場でされた行為を思い出して顔が呆けていた義人を藤崎が見逃す筈もなく、バッチリと後ろから見られていたのだ。 1年前とは比べ物にならない程、義人は煽り方が上手くなった。 それも、人の性欲やら欲情の煽り方が、だ。 (ぜーーんぶ天然なんだもんなあ) 滝野や周りの女子は安心できても、藤崎としては光緒辺りが一回だけ、とか言って手を出してくる可能性を否定できず、うーん、と頭を悩ませる日々が続いていた矢先の今日の出来事だった。 (本当にちょっとは自覚してもらわないと) そう思いつつ、やはり一度煽られた感情が止まる事はなく、先程全く抜く事ができなかった藤崎の股間はすぐにグッと立ち上がってしまった。 「佐藤くん。可愛いのはいいんだけどね。それ知ってるのは俺だけでいいんだよ」 「は?本当に何言ってんだお前」 鏡越しに目を合わせながら、後ろから自分を抱きしめる藤崎と会話をする。 「離しやがれ」と言いたげに不服な表情を浮かべ、義人は軽めの肘鉄を先程から藤崎の脇腹めがけてどすどすと何発も入れている。 「いーたーいー」 「ドライヤーをしーまーえー」 ムスッとした藤崎がドライヤーを棚に戻す。 その間、義人は藤崎がきちんと棚の中のケースにドライヤーを入れるか監視しながら、何となく彼のパーカーの裾を左手で掴んでいた。 パーカーは義人がワインレッド、藤崎がマリンブルー、里音はスモーキーピンクと、それぞれ彼女がチョイスした色が配られていた。 藤崎は明るい寒色を選ぶ事があまりなく、義人は彼がパーカーを着た瞬間に「チャラッ!!」と叫んで喧嘩になった事を思い出した。 見た目が派手な分、身に付けるものの色は地味な方が、藤崎自身と色がバチバチに喧嘩してやたらと目立つよりも断然良いとこのとき胸に刻んだ。 「これでいいだろ?」 「コードちょっと出てる」 「え?あ、ほんとだ」 ケースからひょろりと出ていたコードを藤崎が仕舞うと、義人は納得してフン、と鼻を鳴らす。 勿論、最後に言ったコードの件は別に扉が閉まればどうだって良かった。 「ねえ、義人」 棚の扉をバタンバタンと閉め終わると、藤崎は再び鏡の前に身体を戻してお揃いパーカーを着ている義人を見下ろした。 先程、自分の髪もついででやりつつ乾かした義人の髪は、ふわふわのサラサラになって良い匂いがする。 浴室を出て直ぐに彼の顔や身体に塗り込んだ化粧水は乳液は、全て里音が「私の肌に合うからくうも義人も絶対大丈夫。美肌になりな」と去年のクリスマスに貰ったやたらと高い定期購入のものだ。 「ん?」 ぎゅむ、とまた後ろから抱きしめてくる藤崎を、鏡越しに見つめ返した。 (あれ、そう言えば髪の毛乾いてる。いつやったんだろ?) 藤崎のミルクティベージュのサラサラな髪を見ながら、乾かしただけのセットされていない髪型にキュン、と胸が高鳴る。 「何でパーカー離してくれないの?」 「え?」 確かに、先程から義人は藤崎のパーカーの裾を左手で掴んでいる。 それもギッチギチに力を込め、逃がさないとでも言いたげにに手の甲に血管が浮き出ていた。 「あ、ごめ、」 「いや、謝らなくて良いんだけどさ。もしかして、」 「?」 腰に回されていた腕が、スルスルっと義人のパーカーの中に侵入してくる。 「甘えたいの?」 藤崎が怪しく大人びた笑みを浮かべているのが鏡に写り、義人にはその表情がよく見えた。 服の中に入った手は、洗われて綺麗になったばかりのサラサラでしっとりした肌の上を撫でながら動きまわる。 「っち、がう、お前何してんの、っあ」 「だって離してくれないから。甘えたいのかなあって」 言い訳がましくそう言いながら、藤崎は義人の耳の輪郭を舌でなぞり、はあ、と熱い吐息を吹きかけてから耳の内側に舌を這わせた。 「やんっ、」 びくん、と義人の腰が震えると、後ろから自分を抱きしめている藤崎の、勃起したそれが尻に当たった。 「あ、なに、これ」 「分かってるくせに〜」 「いや、だから、何で勃ってんの、?」 それがそこにあるのまでは義人も当然理解していたが、何故今勃起しているのかは分かっていない。 義人の尻の割れ目にそれを強く擦り付け、藤崎はまた彼の耳をぐちゃぐちゃに舐め回し始めた。 頭の中に響く水音が義人の脳を麻痺させていく。はあ、と息が荒くなり、肌を直接撫でる藤崎の手にいちいち肩を震わせるようになると、藤崎はそれを満足そうに眺めてから義人の耳元で呟いた。 「乳首どこだっけ?」 「ッ、はあ!?」 強気な声を張り上げたが、鏡に写った自分自身の真っ赤な頬や余裕のない顔を見て、義人は何故だか興奮した。 (何か、これ、凄い) 尻に擦り付けられる明らかに勃起した性器の形を感じて、きゅん、きゅん、と穴が勝手にひくついている。 鏡に映る自分の顔と、それを満足そうに意地悪く見つめる藤崎の顔、どちらも一気に視界に入ってきて、義人は身体を震わせた。 (藤崎にこんな顔させられてるんだ) そう考えると堪らなくいやらしい気分になってくる。 支配されているのだと思うと、頭が熱くなりぼーっとした。 「あっ、ンッ」 耳を舐める舌は止まらない。 「義人、乳首見せて。どこにあるのか忘れちゃった」 時折り聞こえる藤崎の低くて甘い囁きに義人は身体を震わせて、藤崎の服から手を離すと自分のパーカーの裾を持った。 (乳首、見せなきゃ、触ってもらえない) 波打つようにじわりじわりと気持ちのいい電流が身体に流れてはいるけれど、先程から大きく声を上げる程の強い快感は貰えていない。 スイッチの入った彼にはそれがどうしても切なくて絶えられなくなった。 焦らすように胸にも尻にも性器にも触ってくれない藤崎が、何を考えているのかなんてものはもう義人にも理解できている。 おねだりしないと、彼は動いてくれない。 こう言うときの藤崎の粘り強さは恐ろしいのだ。 「見、て」 鏡に映った藤崎に誘惑するような視線を送り、義人は焦らすようにゆっくりとパーカーの裾を上げていく。 (淫乱ちゃん) 義人の言葉と仕草に股間が痛くなるのを感じた。 パーカーを持ち上げる義人の邪魔をしないよう、彼の細い腰を掴み尻に勃起したそれをゴリゴリと擦り付け、露わになっていく白い肌を舐め回すように見つめる。 「ここだよ」 ピンク色の、ピンと立ち上がって主張している小さな2つの突起が服の下から現れると義人は動きを止め、藤崎にそれを見せつけて、煽るように言った。 「ん、どこ?」 「っん、」 はあ、と熱い吐息を同時に吐き出して、藤崎は義人の腰から手を離し、腹の筋をなぞりながら両手を滑らせ彼の体の凹凸をなぞっていく。 義人は自分の肌を這う藤崎の手を眺めながら、早くその小さな突起までたどり着かないかな、と待ち遠しくなり、先程から尻に擦り付けられている性器に逆に少しだけ尻を突き出した。 「どこ?教えて」 「もっと上、」 ヘソを過ぎた手はゆっくりゆっくりと身体を登ってくる。 「もっと上」 肋を撫で上げ、とうとう乳首の下まで指先が迫る。 「どれ?」 「もう少し、上の、、乳輪の真ん中の」 「うん」 「勃ってるの、触って」 「この小さいの?」 「そ、う、、」 乳輪をくるくると撫でられるのに、乳首には爪が擦りもしない。 「藤崎、」 「名前」 「く、おん」 「なに?義人」 鏡越しに交わる視線は、欲情しきったそれと、対するは支配的な目だった。 言わなければ、触ってくれない。 義人の脳裏にそう浮かんだ。 「乳首、触って」 その言葉を義人が言った瞬間、藤崎はニッと意地悪く微笑んで彼の立ち上がった乳首を下からぴんっと指ではねる。 「ぁんっ」 途端に身体をよじらせ、義人はパーカーの裾を離しそうになった。 「服ちゃんとめくっててね。見えなくなったら触れないから」 「あ、あっ、、、だめ、あっ」 言葉では拒絶するくせに、義人は藤崎に言われた通りに服の裾を強くしっかりと掴んだ。 鏡で義人の乳首を見ながら、藤崎はクニクニと捏ねたりはじいたりを繰り返し、たまに引っ張って彼の体を弄ぶ。 「ンッ、んぅっ、んっんっ」 そうしている間も、お互いにスウェット越しに性器と尻を擦り合わせて、段々と興奮が収まらなくなってきている。 (シたい、、シたい、どうしよう、後ろの穴に突っ込まれたい) 義人は夢中で尻を動かし、乳首をいじられる自分の姿があまりにも情けなくて目に涙を溜めていた。 (こんなになってて、俺、大丈夫なのかな) 男のくせに、と頭の奥で誰かの声がする。 「義人、ベッドに行こう」 「はぁんっ、!」 ギュッと乳首をつままれ、義人は情けない声を漏らした。 身体から手を離した藤崎はパーカーの裾を離した義人の身体をぐるりと回転させてこちらを向かせ、頬を撫でながらちゅ、と唇にキスをした。 「ごめん、我慢できなくなった」 弱ったような藤崎の表情に、グッと唾を飲み込んで見上げる。 ああ、良かった、藤崎も我慢できないんだ、と。 何処かで義人は安堵していた。 「さっきお前、イッてなかったじゃん、、だから、俺もちゃんとしたい」 義人は恥ずかしそうにそう言って、藤崎のパーカーの裾を掴んだ。 「ご飯先じゃなくていい?」 「いい。久遠とセックスするのが先」 「、、、」 (だから、そう言うのが、、あー、もう) 俯いてこちらを見ないくせに、義人はしっかりと藤崎が欲しい言葉を言ってくれる。 調教した甲斐があった、だなんて藤崎には思えなかった。 (成長し過ぎ、応用できるようになり過ぎ) それが嬉しくもありつつ、絶対に他の男に見せる訳にはいかない、と藤崎は奥歯を噛み締める。 (可愛い過ぎて他の男が勘違いしないか不安になる) 自分らしからぬその心配に、一度ギュッと義人を抱きしめて首筋に顔を埋め、ズーッと匂いを吸い込んだ。

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