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第60話「幸せ」第2部終わり

「んっ、、?」 唇に何かがあたる感触で目が覚めた。 「あ、、ん?あれ?」 「起きた?」 すぐそこに藤崎の顔が近づいて、また唇にくすぐるようなキスをされる。 義人が仰向けに寝るすぐ隣に藤崎がピタッとくっついて左手の肘をつき、手に頭を乗せながらこちらを見下ろしていた。 「トんじゃったね」 「え、、」 「失神、的な?」 「あぶなっこわっ!」 「あと5回シないといけないのに、、義人が感度良すぎるから」 「俺のせい!?5回もしないからな!?」 えー、と言いながら藤崎がコテンと義人の顔の横に頭を落とし、左腕を彼の頭の下に滑り込ませてくる。 義人は頭を上げて素直に腕枕をされると、胸の上にドン、と乗った藤崎の右手に「うっ」と一瞬息を詰まらせた。 この腕が中々に重いのだ。 「義人」 「んー?」 愛しげに名前が呼ばれ、横を見ると細められた視線と目が合った。 「プレゼントがあります」 「え」 驚いて目を見開くと、藤崎は義人の目に自分の顔が写り込んでいるのを見て笑った。 その目をぱち、ぱち、と何度か瞬きをすると、義人は肩をすくませる。 「俺、用意してないよ」 「いいって、俺が勝手にやってるんだから」 「それだと何かなあ」 「じゃあ2年目は義人が何かちょうだい」 「とか言っといてお前絶対何か用意するだろ」 「それは当たり前」 すりすりすりと頬を擦り付けられ、義人は「うーん」と唸った。 当然のようにに2年目の話が出た事は嬉しく、そしてどこか恥ずかしい。 (当たり前なんだなあ) 身体に伝わってくる藤崎の体温が心地良くてまた眠くなってきたが、プレゼントの事を思い出してそれを吹き飛ばすように大きく伸びをした。 「こちらをどうぞ」 「ん?」 義人の使っている枕のそばに置いてあったそれを引き寄せ、藤崎は15センチ角程の真っ白な本を義人の胸の上に乗せる。 「本?」 「本当は何か2人のものって思ったんだけど、義人はネックレスとかブレスレットとかもあんまり付けないからなあって思って」 題名すらないその本に巻かれた薄い紫のリボンをシュル、と解くと、リボンの締め付けが柔いで本の厚みが少し増した。 (写真が貼ってある、、?) 取り去ったリボンを藤崎の顔にヒョイとかけると「こら」とひと言返ってくる。 それを気にせず表紙を捲ると、真っ白なページにドン、と自分と里香が笑う姿が映された写真が現れた。 「っえ、?」 「俺達のアルバム作りました〜」 「え!?やば、すご!!」 寝転がっていた身体を起こしてベッドに座り直すと、ギシギシとスプリングが音を漏らす。 藤崎も義人に続いて座り直して彼の右肩に顎を乗せ、自分が作ったアルバムに視線を落とした。 白く細い指がゆっくりとページをめくっていく。 「てか何これ、いつ撮ったんだよ」 「全部盗撮」 「そこはいい加減にしろ」 義人は肩を揺らして笑いながら、撮られていたなんて知らなかった写真達に目を通していった。 里香と2人で笑い合う写真から、入山と2人で笑う写真。これは自分自身の髪型や服の趣味でわかるが、入学したばかりの頃だ。 学食でチームうな重でラーメンを食べているもの、講義で寝ている姿、何枚目からか、藤崎と2人のものが増えてくる。 「この辺は皆んなから写真もらった」 「あ、これりいのSNSにあげられたやつ!」 「似てるけどあれの別ショットだよ。ほら、佐藤くんむこう向いている」 「そんなのあるの、あはは。これは?」 「これ滝野が携帯電話構えてコケながらたまたま撮れたやつ」 「だからシャッ!て影しか写ってないのか」 入山が撮ったもの、里音が撮ったもの、滝野、光緒、遠藤が撮ったもの。里香が撮ったもの。それから西野が撮ったものまで入っている。 無論、2人が自分達で撮った写真もある。 「すげー、、よく集めたなあ」 「頑張ったよ」 「えらいえらい、ありがとう」 ふふ、と笑いながら、最後のページを開く。 「あ、これは恥ずかしいから1人で読んで」 「え、なにこれ、おい寝るな」 「おやすみ〜」 「おーい」 バサッと毛布を被りながら顔を隠して寝転がる藤崎を見送り、身体を何度か揺すっても反応しない事を確認してから、諦めた義人は最後のページを見つめた。 部屋でたまたま撮ったその写真の事は覚えている。 「俺の彼氏」と藤崎が幼馴染み達とのグループメッセージに送り付ける為に撮ったものだ。 「、、、」 2人でニッと笑いながら肩を組んでいる。 一見するとただの男友達同士のようにも見える。 「1年、、」 1年記念日おめでとう。 初めは義人と付き合えてる事が嬉しすぎて頭がパンパンで大変だった。 お互いに少し落ち着いてきた時期だけど、これからはゆっくりじっくり隣にいられると思うとやっぱり嬉しい。 どれだけ言っても足りないけど、俺は義人が好きです。 絶対幸せにするから、ずっと隣にいて下さい。久遠 やたらと几帳面そうな綺麗な字は、この1年で見慣れたものだった。 最後のページはその文章で終わり、パタンと本を閉じると隣で毛布にくるまって動かない巨体を見下ろす。 (馬鹿だなあ) いつももっと恥ずかしい台詞を言うくせに、何故文字にした瞬間こんなにも恥ずかしがっているのだろうか。 義人はフッと笑って、一度アルバムをギュッと胸に抱くとベッドの傍にあるサイドテーブルに置き、隣の丸まった身体の上にのしかかった。 「おっも」 くぐもった声が毛布の中から聞こえてくる。 「なあ」 「ん?」 手作りのものなんてベタなプレゼントだったけれど、初めて迎える恋人との1年記念日が嬉しくて、義人は頬を緩ませながら顔の見えない彼に言えるだけの事を言った。 こんな事にも疎く、プレゼントも用意していなかった自分を気にせず受け止めるところも藤崎らしいな、と小さく息をつく。 「出会ってくれてありがとう」 「、、、」 「今でも充分幸せだよ」 モゾモゾと毛布が動き、酸素不足で少し赤くなった藤崎の頭が出てくる。 身体を退かしていた義人に手を伸ばすと、頬を両手で包んでちゅ、とキスをされた。 「離さないよ」 切迫したような必死な目で言われた義人は「ふはっ、!」と吹き出して笑い、今度は自分から藤崎の唇を奪う。 「俺も離さない」 コツン、と額を合わせ、2人で擦れるお互いの鼻先を見つめ合った。 「愛してる」 「俺も、、愛してる」 隣に藤崎がいる。 幸せで、苦しいくらいに楽しくて嬉しい日々。 手を伸ばせば、藤崎も伸ばしてくれる。 離れないから、離さないで。 そう願いを込めて、2人はグッと手を繋いだ。 笑い合える1日、1日を、大切にしよう。 すごくありきたりな事が出来るこの日常を大事にしよう。 どんな世界でも、退屈で不公平な世界でも。 藤崎が隣にいると、キラキラ輝いて見える。 藤崎が自信をくれるから、胸を張って道を歩ける。声が出せる。笑える。 藤崎でよかった。 藤崎に出会えて良かった。 「愛してくれて、ありがとう」 心から、今日は久遠に、そう言える。 恥ずかしがらずに、顔を見て、ちゃんと。 1年が経った。 おめでとう。 これからも、よろしく。 もう一度、ゆっくりキスをした。

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