1 / 12
第1話
――広大な海の奥深く。
深海と呼ばれるその場所で、俺は他の生物たちとの接触を拒み、生き続ける。
俺は異形の者。
異形の存在。
皆から忌み嫌われ続ける者。
大いなる神であるポセイドンが治めているこの国は、青々とした美しい海が広がり、人間たちはもとより、邪悪な意志を持つ者は手出しできない。
美しい海は彼の手によって治安に守られている。
少なくとも、俺がいるこの深海は別として、だが……。
「ねぇ、クライド、聞いて聞いて? 僕、16歳の誕生日を迎えたんだ!!」
深海と呼ばれるこの地域は、常に静寂が広がり、混沌とした闇に包まれている。
ここにはポセイドンの魔力は届かず、ゆえに、邪悪な心を持つ者がうろついている。
だが、永遠の沈黙も、『彼』がここへ来ると、すぐに消え去ってしまう。
海藻のように深い色をした緑の、艶やかな短い髪に、アクアマリンの大きな目。
それから虹色の鱗を持つ美しい尻尾。
彼はどこからどう見ても、深海に住むような異形の者ではない。
彼はれっきとした、ポセイドンの血筋を引く美しい人魚だ。
それなのに、なぜここへ来るのかというと――言うまでもない。
俺がいるからだ。
「……フラン、いい加減にしろ。ここへは来るなとそう言っているだろう!?」
「わあ、フランそうなの? お誕生日、おめでとうっ!!」
説教をする俺を無視して、彼は腰に手を当て、誕生日を祝ってくれとそう言う。
フランは、いつもこうだ。
ともだちにシェアしよう!