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第19話

 そっと伸びてきた大智の手が、火照る潤太の頬に触れた。冷たくて気持ちいい。潤太はひとつ瞬きをした。 (大智先輩にもこんな繊細な触わりかたとか、できたのか)  いや、違う。強姦に襲われたあの日も、彼はこんなふうに自分に優しく触れて慰めてくれた。なんどもなんどもずっと、自分が泣き止むまで背中を撫で続けてくれた。あのときの手もとても心地よかった。思えばあのときに、自分のなかに大智にたいする特別な感情が芽生えたような気がする。  潤太の呼吸は、まだ落ち着かないでいた。 (……疲れた)  潤太はそっと瞳を閉じた。 (先輩、俺のこと、好きだって云ったよな。俺とつきあえって)  彼はそんなことを本気で云っているのだろうか。 「なぁ」と大智に話しかけられて潤太は、耳をすました。 「吉野の……、なんだっけ? ぶつかって転んで合体作戦だっけ? ぶつかった俺がお前に、ってヤツ」 (当たって合体作戦だ。当たっても砕けないって意味で名まえをつけたんだから)  そうだ。あの日、公園で怖い思いをした潤太が逃げてきたとき、自分を見つけた大智が声を掛けてくれて、――そして自分は迷わずに彼の胸に飛び込んだのだ。 (どうせ、俺が一方的に大智先輩にどきどきしてただけだよっ)  それなのに、まるで彼もおなじ想いでいるような錯覚をしてしまって、勘違いも甚だしい作戦を考えてしまった。今思い返しても恥ずかしいのに、なぜ大智はいまさらその話を蒸し返すのだろうか。 「俺と密着してどきどきしたとか……」 (うん、したよ。そして今もどきどきしているよっ)  だから。大智先輩、いったい俺に何を云いたいんだよ。遠まわしや、じれったいのはイヤだ。はっきり云って欲しい。はやく云って欲しい。 「あーっ。くそっ」  目を閉じていたって、彼が吐息を吐くのがわかる。 (今、クソとか云うな。舌打ちもやめろ)  潤太の神経のすべてが、大智に向けられていた。 「お前の云う通りだったんだよ。実はあんとき、お前を抱いて。こうして撫でていて。……俺、めちゃくちゃどきどきしてた」 (…………) 「あんときから吉野のこと意識してたんだよ、きっと。てか、もしかしたら、もっと前からかも」  気配に目をあけると、大智の顔が近づいてきていたので……、彼のキスを許して潤太はもう一度そっと瞼をとじた。

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