背中と冷たかった床の間に彼の腕がまわり、引き寄せられるようにして抱きしめられる。それだけで、身体が熱くなっていった。 　目のまえにある大智の首筋に鼻さきを寄せてみると、どこまでも甘やかされたいという気持ちがわきあがってきて、潤太は彼の首に頭を擦(こす)りつけてみた。 　すると頬を両の手のひらで挟んできた大智に、顎を上げさせられる。じきに唇どうしが触れると、潤太の身体はぴくんと弾んだ。 （唇が、しびれる……） 　何度も角度を変えて、たっぷりと唇どうしを擦りあわせたあと、今度は「ここに入れろ」とでもいうように、大智の舌先は潤太の口唇の間(あわい)をつついてきた。 　濡れたつるっとした舌先が、唇の間から歯をつんつんと叩く。その動作に合わせるようにして、そこと直結しているかのように、潤太の腰がびくびくと震えた。 （や、腰、揺れちゃう……） 　大智にも伝わっているだろうか。恥ずかしい。そう思っていたのはつかの間(ま)で、潤太は唇を探られているうちに、自ら燠火(おきび)の燻(くすぶ)る腰を彼に押しつけるようになっていた。 　そこから生まれたいやらしい快感は波紋のように全身に広がっていき、さらに貪欲に刺激を求めた身体は、潤太に大胆な行動をとらせる。 　潤太は勇気をだしてそっと口をあけてみた。すると待ってたとばかりに大智の熱い舌がぬるっと滑り込んできた。 「はぅふん」 　ぞくぞくとして、力が抜けた口からヘンな声が漏れてしまう。 　 　口のなかを舐められるというショッキングな行為に、いろんな想いが交差した。云いわけで頭のなかがごちゃごちゃする。それでも大智がするキスと、自分から貪っている下半身の刺激に、潤太は指先や顎のつけ根にきりきりと痛みを感じるほどに高ぶった。 「……ぁうん。っうん……、ん……」 　口腔を擽られるのも、髪を梳かれるのも、身体を撫でられるのも。心を許したあとでは、なんて気持ちがいいのだろう。 「……吉野、好きだ」 　云われると体内をぞくりと快感が駆け抜け、思わずふわっと腰が宙に浮く。するとすこしまえから張りつめていたそれぞれのものが、互いの身体に強く押しつけられることになった。 「うぅっ」 「んっ」 　ふたりして、小さく喘ぐ。 「吉野……好き……」 　潤太は大智の告白に答えようとして、唇が重なったままこくこくと必死で頷いた。素肌を大智の大きな手のひらで撫で摩(さす)られるのが気持ちよかった。名まえを呼ばれることも、好きという言葉も、とても自分を心地よくしてくれる。 　もっと、名まえを呼んで。もっと、好きだと云って。もっともっとこうしてくっついていたい。潤太はうっとりと大智に身を委(ゆだ)ねていた。 「ふぅん、んっ。た、いち……先ぱっ…………い――――っ⁉」 　しかし、ただ身体の表面を這いまわっていると思っていた大智の手が、既に自分のベルトのバックルを外し終えていたということに、潤太は股間に忍び込んできた彼の手によって気づかされた。 「ぎゃっ‼　や、や、やっ」 　慌ててどんっと大智の胸を両手で突き飛ばすが、大した抵抗になっていない。 「なにすんのっ⁉」 「うっせ、ちょっと黙れって」 「黙れるか―っ！　先輩、今、どこ触ったよっ」 「なにって……」 　逆になにを云ってるんだ？　とばかりに、潤太は困惑した顔で大智に見降ろされた。 　そこではじめて潤太は彼と自分との見解の違がいに気づいたのだ。 「いやっ、ダメっ！　先輩ダメダメ、俺そんなつもりないからっ」 「いや、吉野、頼むから黙って。ムードがぶち壊れる」 「そんなものは、はなっから、なぁいっ！　ぎゃあぁっ！　だから、チンコ触るなってばぁぁ」 　そして、暴れる抵抗も空しく、寒いなか廊下で寒いセリフを放たれながら、潤太の制服は大智にするすると脱がされていったのだ。