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第23話

 ふたりに視線を向けられると、潤太は疚しくてそっと俯いた。 「じゃぁ、僕がフラれるわけ?」  俊明が云ったセリフにも、潤太は不貞腐れてしまう。 「……違う」 「…………」 「…………」 (だって、どっちも好きなんだから、どっちとも一緒にいたいじゃないか。フルとかフラれるとか云わないでよ……)  唇を咬んで床を睨みつける潤太の目じりに、うっすらと涙が滲んだ。  それに気づいたのか俊明が「はぁ‥…」と嘆息するのに、潤太はついに彼に呆れられてしまったんだと、悲しくなった。ところがそうではなかったようで――。 「さて、どうしようか? 大智」  俊明は気をとりなおしたように、軽い調子で大智に話かけたのだ。 「なんか、わかってた気もするけど、結局のところ、こうなるんだよな」  それに返す大智の口調もおなじようにあっさりしたもので、潤太は戸惑ってしまう。 「……あの?」 「いいよ、吉野は悩むな。好きなようにさせてやるから」 「へ? 好きなようにって……」 「つまり、僕たち両方を選んでいいってことだよ」  大智の言葉を俊明がわかりやすいように云い直してくれた。しかもそれは潤太の悩みを解決してくれるとてもうれしい内容だ。 「いいの⁉」  潤太は喜色満面でふたりを見た。 「入学式の日に、唾もつけておいたからね。僕は今更、吉野を手放せない」  俊明にしょうがないよと云いたげな表情(かお)で額をつつかれて、潤太はぽっと赤くなった。 「唾って……。俊、お前、もしかして――っ⁉」  咬みつきそうな勢いで訊き返した大智に俊明が、にやりとする。 「とっくに頂いちゃってるよ。だって、――僕だよ?」 「え? なになに? 先輩なんの話?」  ひとりだけ話が見えてず、きょろきょろふたりの顔を見た潤太の腰が、がしっと乱暴に大智に抱き寄せられた。 「うわっ、びっくりするだろっ」 「吉野っ! お前、こっちの――」 「ひぅっ⁉」  ズボン越しに、大智に尻をするりと撫で上げられて潤太は跳び上がる。 「こっちのファーストは、絶対に俺によこせよな‼」  それについてもやっぱり話が見えなかった潤太だが、ファーストという単語に忘れかけていたキスのことを思い出して、潤太はそのあとしばらく「ファーストキスを返せ」と大智を責めたてた。  あんまりもしつこく騒いだものだから、ついには反撃にでた大智に見事な逆エビ固めを決められて、潤太はこの日一番の絶叫を廊下に轟かせることになった。

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