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第24話
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教室の窓から見える空はもう暗い。まもなく最終下校時刻を知らせるアナウンスも流れるだろう。潤太は大智と一緒に俊明の仕事が終わるのを待っていた。
ここは執行部の会議用の教室で、潤太も前期までは定例会で月に一度は通っていた。今、俊明が片付けをしている奥にある準備室にだって入ったことがある。
「だから、俺も手伝えるんだよ? 一緒にやったら早く帰れるのにねぇ」
しかし潤太が手伝いを申しでたら、俊明にやんわり断られたのだ。
「恋人なんだから、遠慮しないでいいのにね」
さっそく『恋人』と云う言葉を使ってみた潤太は、唇が擽ったくなってしまった。
「だから俊明おいて、先に帰ろうって云っただろう?」
「いやですー。三人で一緒に帰るんですーっ」
暖房をつけていない教室はとても寒く、ふたりは壁に凭れて寄り添って座っていた。触れあっているところだけがぽかぽかしている。
(反対側に斯波先輩が座ってくれたらきっと両方あったかだな)
潤太は俊明と大智に挟まれて座る自分を想像してみて、にやついた。
「へへへへっ」
手袋をつけた両手に顔を押しあて、緩む顔を大智から隠す。
初恋人できたーっ。しかも一挙にふたりもだ。俄か意識しだした大智とはまた違い、四月からずっと好きだった俊明と恋人同士になれたことには、感慨もひとしおだった。
「がんばった甲斐があったよなぁ。苦労が報われたよ」
「ああ。ホニャララ作戦のことな。苦労するはめになったのは、すべてお前のそそっかしさが原因だろ?」
「まぁまぁ」
「そもそも、なんでクラス委員辞めたんだ? 続けてたら俊明に告 るチャンスなんてアホほどあったろうに」
「ホントだよ、まったく」
潤太はくりっとした目で隣の大智を見上げると、肩を竦めた。
潤太は入学式の日、寝不足で訪れた保健室でついつい寝過ごしてしまった。潤太不在の教室ではそのときに各委員の選出があったらしく、潤太は知らぬ間にクラス委員にされていたのだ。
はじめこそ憤慨していたものの、はじめての役員会で俊明を見てしまってからは、潤太は彼会いたさに率先して委員長として働きまわっていた。それなのに潤太のあまりの頼りなさが原因で、後期にはクラス委員をクビになってしまったのだ。まったく残念極まりない。
ちなみにいまも俊明に手伝いを断られた理由が、そのへんにあるとは潤太は気づいていない。
「なぁ」
寄せあった肩同士を、コツンとされる。
「んー? なぁに?」
「おまえ、あいつに初チューやったんならさ……」
「へ?」
彼はいったいなにを云っているんだ? と、潤太は訝しげに大智をみた。
「こっちは、ホントに俺に先にやらせろよな」
「はいっ? へ?」
腰に大智の手がまわってきて、お尻をナデナデされる。
「お前……、ホント、大丈夫かよ? なんっか、危機感がないんだよな」
「って、大智先輩、またどこ触っているんですか」
腰から尻にかけてを、さすりさすりと落ち着きなく動く大智の手をひっつかむ。
「なんか、先に俊明に手ぇ出されそうで怖いわ」
「なに云ってるんですかっ。大智先輩じゃあるまいし、先輩はこんな変態じみた真似はしませんって。いやっ、ちょっと、大智せんぱいぃぃっ!」
掴んでいた大智の手は、簡単に潤太の手から逃れていって、またもや、潤太の背中に回り込んできた。大智にずいっと寄られて、潤太は思い切りのけ反る。
「吉野、俊 に夢見すぎだって」
どんどん迫られて、もう少しで背中が床に着いてしまいそうだった。
「ってかさ」
すんでで、ひょいと大智は身を起こした。おお、やばかったと、どきどきする胸を押さえながら潤太は、即座に態勢を整える。
「俊明が手ぇださなくても、お前、またどっかの変態とかにヤられてきそうだし」
「さっきからワケわかんないことばっかり! いったいなんの話だよっ」
「下手すりゃ、車に轢かれてあの世行きとかになってそうだし。そうだよな。だったら、今のうちに」
ひとりで勝手にしゃべってひとりで納得した大智は、云うがはやいか潤太に襲いかかってきた。油断していた潤太はあっけなく床に転がされてしまう。
「ぎゃっ⁉」
「ほらっ、静かにしないと俊明がでてくるだろっ」
「いやっんっー……」
いっそ隣の部屋にいる俊明に助けてもらおうと、潤太が大きく口をあけたとたん、顎を掴まれ大智の唇が重なってきた。口封じのつもりなのか、のっけから口腔 に舌をつっこまれて、なかを探るようにされた。
(だめだぁー……、抵抗できないよ。コレ、なんか気持ちいいんだもん)
「ふぐぅっ、―……んっ、んっんっう……」
顎を固定されているので、さっきしたはじめてのキスよりも、より深いところを蹂躙される。潤太の口の端から、飲み込めない唾液が顎を伝っていった。
「んうんっ、ちょっ、ん――っ ん――っ」
(だから、なんでまた、ズボンのチャック下ろすのぉぉぉっ⁉)
キスが気持ちよくって、すでに兆している自分を彼に知られたくはない。
(しかも先輩のもまた固くなってるし)
潤太は脚をバタつかせて、なんとか大智を押しのけようとした。
「たいっ、せんぱいっ!」
「なんだよ? 吉野」
背中をギブギブと叩いていたら、やっと口づけを解いてもらえた。
「これ以上したら、ヤバいでしょっ。さっきみたいになったら困る! 俺の息子、やっと寝たんだから、勝手に起こさないでっ」
(また寝かしつけるのが大変でしょうがっ!)
「なに云ってるんだ、すでに勃ってるくせに」
「きゃんっ」
下着のうえから軽く握られて、潤太は小さな悲鳴をあげた。じわんと下着に沁みた感触に、顔を顰める。
(ううぅ、べちょっとしたぁ……。気持ち悪い……)
「先輩だって、いま勃ってるでしょ……」
大智に握られたせいで腰が砕けて動けない潤太にできる抗議は、せいぜい彼を睨みつけることだ。
「いや、俺はどっちかって云うと、さっきからずっとって感じ」
「ひぃぃぃっ、なに云ってるの、このひとぉぉ」
「なぁ、ちょっとだけ、触りあいっこしよ? お前だってさっき俺の脚に擦りつけてただろ?」
「だめぇっ、だめだめっ! ってか、斯波先輩、呼ぶよっ」
こんな情けないところを、二度も俊明に見られるだなんて本当はいやだが、背に腹は変えられない。潤太はなんとか身体を捩じって肘で上体を起こすと、準備室の扉にむかって、大声で俊明に助けを求めた。
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