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第26話

 ついさっき潤太が知った新事実がある。なんと俊明と大智は親戚同士だというのだ。 「いとこ?」 「そう、いとこ同士。親が兄妹(きょうだい)なんだよ」  目を丸くする潤太に俊明は、自分の父が兄で大智の母が妹だと説明してくれた。ふたりは家も近所で、ずっと一緒に育ってきたわりには、仲がよくないらしい。それが原因で親たちがふたりのために用意した学校近くのアパートにも、大智は滅多によりついていないそうだ。  大人だと思い込んでいた俊明が、路上で大智とつまらない云いあいをしているのを目の当たりにした潤太は、とても驚いた。かといって彼に幻滅するとこはないが、なぜクールな彼が大智相手にそんなにムキになるのか、不思議でしかたない。 「なんで? せっかく(おな)い年なんだし仲良くすればいいのに? なにがそんなに合わないの?」 「全部!」  潤太に無理やりケンカを止められて不完全燃焼だったのか、吐き捨てるようにして答えた大智の言葉を、俊明がやんわりと否定した。 「んー。そうじゃないんだよ。昔からよく遊んだりしてるから仲が悪いわけではないと……。大智とは気があうのかして、意見もよく合うしね。ただ趣味や好みも丸被りでさ、そこに問題があるんだよ……」  自分でも情けないと思っているようで、俊明が苦笑する。 「そりゃもう、おもちゃにしても食べ物にしても、ひとつしかないものはなんでもふたりで取り合いのケンカをしてきたんだ」  よっぽど反りが合わないのかと思いきや、その反対で子どものころから一緒だったふたりは、とにかく反りが合いすぎたという。 「でね――」  そのあとも続いた俊明の話に、潤太はいろんな意味で絶句した。つまり、趣味や好みが丸被りの彼らは、今までも何度も同じ相手に恋をしてきたそうだ。そして毎度彼女を取りあって揉めにもめてきたという。 「あいつの時は、別れたあとにもお前がしつこく嫌味を云ってきたから、こっちも治まりがきかなくなったんだろっ?」 「僕はなにもしつこくなんてしてない。大智が後ろめたく思ってるからそう感じただけじゃないの?」 「いいや、もともとお前はいちいち嫌味っぽい云いかたなんだよ! 嫉妬深いしな」  また云いあいをはじめたふたりをよそに、潤太は手袋をした指を顎にあてて「ふむ」と頷いた。総合するとふたりはいままでに、好きになった女の子を奪いあったり、二股されていたり、ふたりそろって袖にされたりしてきて、お互いへの積年の恨みがあるのだ。それが高じて、さっきからこうして悪態をつきあっていると……。 (そんなにいっぱいつきあってきた子がいたんだ……)  これは由々しき問題だ。しかももとカノの話をいまカレの俺のまえでしちゃう? そんな基本の気配りができないくらいに、ふたりは口ケンカに熱くなっている。潤太はすっかり怒るタイミングを失っていた。 (しかも奪い合ったというその彼女とやらは、いったいどこにいったんだ?)  そこで潤太はふたりに訊いてみた。 「先輩たちさぁ、そんなにモメるほど好きになった子が何人もいてさ、なんで今、誰ともつきあっていないの?」  するとふたりはぴたりと口ゲンカを止めて、黙りこんでしまった。潤太は猜疑心に目を細めた。 「……案外、ふたりとも薄情なんじゃ?」  どうやらこの2匹はケンカに夢中になりすぎて、主人のことはどうでもよくなるワンちゃんらしい。そのうえ性懲りもなくふたり揃ってつぎの女の子に目を移すとは、情が薄すぎるのではないだろうか。  いつなんどき彼らが自分を捨てて他の女の子のところへ行ってしまわないか、気をつけて見張っておかなければならないなと、潤太は思った。 (このふたりには、しっかりハーネスをつけておかなければ……) 「吉野、ちょっと急ごうか。いまなら七分発の電車に間にあうよ?」  ふたりをジト目で見上げる潤太に、俊明がにこっと笑った。ちなみに彼らのアパートはこの近くだそうなので、彼は電車には乗らない。 (斯波先輩、胸キュンするような素敵な笑顔でごまかすな!) 「なんか喉かわかねぇ、吉野? そこの自販機でジュース買ってやるわ」  そう云うと大智はすぐ近くにあった自動販売機に駆けていった。 (大智先輩もモノで釣ろうとするな) 「あまりにも白々しいんですけど……」 「そんなことよりも、吉野。僕のアパートに寄っていかない? すぐそこだよ? なんなら、明日は終業式だけだし、泊っていくといい」 「あ―っ! こらっ、トシッ、 抜けがけすんなぁぁ‼」  こちらに気づいた大智が、販売機の横で財布をぶんぶん振りまわす。 「もうっ。先輩たちってばぁ」  文句をつけるまえに、潤太は呆れ果てて笑ってしまった。

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