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第27話   END

 当面はふたりとつきあったらいいと、彼らは云った。そしていつかどちらかに決めればいいそうだ。  潤太はその提案にとりあえずは頷いておいたが、このさきもふたりのうちのどちらかを選ぶなんてつもりは毛頭なかった。 (俺は絶対、斯波先輩も大智先輩も逃がさないもんね)  潤太は一度好きになると、とことんなのだ。  赤ちゃんのときにお気に入りだったぬいぐるみだって、未だに手放せないでいる。しかもぬいぐるみは今も潤太のベッドのなかに納まっていて、毎晩それらを自分の両脇に並べていっしょに眠っているのだ。  そう、ぬいぐるみはふたつある。どっちも大好きなので、持ち歩くときもふたつ一緒だ。  ずっと三人でいることは難しいのかもしれないが、それでも潤太は頑張るんだと心に誓う。大好きなふたりを眺めながら、手袋をした手をぐっと握りしめる潤太に、俊明は「ああ、そうだ……」と云いながら、コートのポケットに手を突っ込んだ。 「吉野、コレありがとう」  俊明がポケットから出して見せてくれたのは、昨日の朝、潤太が郵便ポストに投函したばかりのハガキだった。 「なんでそれっ⁉」  驚いた潤太は、くりっとした目をさらに見ひらく。ひどく驚いている潤太を不思議に思ったのか、俊明のひらりと翳したそれを、大智が横から取りあげた。 「……あけましておめでとうございますぅ!? ってこれ、お前年賀状じゃないか!」 「吉野。年始に届くようにするには、表にちゃんと赤字で『年賀』って書いておかないと」  眉を寄せながら俊明が教えてくれた。大智も呆れた声でそれに続ける。 「だいたいアパートの住所知ってんなら、ラブレターも家に送ればよかっただろ?」 「ラブレター? なにそれ? っていうか、僕、学校の誰にもアパートの住所、教えてないんだけど。それとも大智が教えた?」  俊明がそんなことを気にするとは露とも想像していなかった潤太は、心のなかで「うっひゃぁっ」と叫んだ。一気に体温があがり汗をかきだす。 「え? 俺教えてないぞ? ……じゃあこいつはなんで知ってたんだ?」 「…………」 「…………」  両手で口を塞ぐ潤太に、ふたりの視線が集まった。 (い、云えない。兄ちゃんに調べてもらっただなんて……)  潤太はぎこちなくふたりから顔を逸らした。  教員をやってる兄に俊明の住所を教えて欲しいとお願いしたとき、彼は知らないし知っていたとしても生徒である潤太には教えることはできないと云っていた。それでも潤太が強請り倒すと彼は折れてくれて、「絶対に内緒だぞ」と職員室で俊明の住所を調べてきてくれたのだ。  いつも潤太に甘い兄があれだけ渋っていたということは、きっとやってはいけないことだったんだろう。もしも学校にばれてしまったら、つい先日病院送りにしてしまった兄を今度は無職にしてしまうかもしれない。  この事実を今日の夜空に葬りさることにした潤太は、ふたりに向きなおると、テヘッとかわいく小首を傾けた。恋人たちに曝したその笑顔には、くっきりはっきり『欺瞞』と書いてある。 「吉野、なんか隠しているな? 白状しろ」 「ぎゃぁっ」  横に並んだ大智に肩をがしっとホールドされて、問い詰められる。 「大智。体格差を考えろよ。吉野に乱暴するな」 「そーだ! そーだ!」  俊明に大智の腕のなかから引き離し助けてもらうと、調子に乗った潤太は、大智に「ベーっ」と舌をだしてみせた。 「おまえなぁ!」  ふたたび捕まえてこようとする大智の隙をうまくついて、潤太は走りだした。 「あっ! こらっ、逃げんな!」 「やーだよっ、うははははっ」  楽しくってうれしくって笑いが込みあげてくる。  やっと叶った恋に。思いがけず転がり落ちてきた恋に。潤太は心が弾んでじっとなんてしていられない。笑いながら思い切り駆ける潤太の口からは、白い吐息が舞いあがった。  (あお)のいて大きく息を吸いこむと、空には輝く光のトライアングル。真冬になればもっと高く。もっと明るく輝くのだ。  未来を想って、潤太は期待に笑顔をはじけさせた。                END

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