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(01) 隼人 1 叶わぬ思いと事件の始まり

とある高級マンションの一室。 朝日がカーテンの隙間から差し込む。 その光は、ベッドで寝ころぶ二人の裸の男を照らした。 繋いだ手をほどき、眩しそうに手をかざす。 「そろそろ起きようか……」 「ああ……」 男達は体を起こすと、うーん、と伸びをした。 一人は大柄の男。 引き締まった筋肉質の体。 切れ長の目と太い眉。 くしゃ、くしゃっとした少し癖っ気な髪。 その顔は、野性的でもあり、しかし、どこか高貴な不思議な雰囲気を放つ。 この男の名前は、高坂 拓海(タカサカ タクミ)。 拓海は、もう一人の男を見て、にっこりと微笑む。 その目線の先にある男は、対象的に色白で細身な男。 釣り目気味の細い目に、薄い唇。 少し影を持ったようなクールな面持ちで、拓海とはまた違った魅力を持った美男子である。 名前は、桜木 隼人(サクラギ ハヤト)。 隼人は、拓海の笑みを受け止め控え目に微笑んだ。 ベッドの縁に座る拓海と隼人。 その足元に、しっぽをフリフリしながら子犬が遊んでほしそうに見上げる。 「ほら、おいで……ジョン」 隼人は大事そうに愛犬を抱き抱えた。 そして、優しく撫でる。 拓海は、そんな隼人とジョンの仲睦まじい姿を優しい目で見つめた。 拓海は、しばらく隼人の様子を眺めていたが、ふと、手を伸ばし、ベッド脇のサイドテーブルに乗せてあった書類を手にした。 その書類は、昨晩、隼人から拓海に渡されたものだ。 拓海は、ペラペラとページをめくりながら独り言を言った。 「双頭の蛇……ねぇ」 隼人は、愛犬を膝から床にそっと下し、拓海の言葉に答える。 「すまない……拓海。本当は警察が動かないといけない事件なのだが……」 「いいさ、汚れ仕事はオレに任せろって、隼人」 そう言う拓海の顔は何とも涼し気。 「……でもな……」 申し訳なさそうに隼人は俯いた。 両手を神経質そうに組む。 拓海は、フッと微笑むと、隼人の体を引き寄せて自分の胸に押し当てた。 そして、隼人の額に、チュッと軽くキスをした。 「何を悩む、隼人。俺達は親友だろ? 気にするな……」 そう言うと、拓海はスッと立ち上がった。 「親友……か」 隼人は、口の中で呟いた。 その言葉は、隼人には特別な意味を持っていた。 恋人ではない、という事。 そんな、悲しい響きを持っている。 拓海は、脱ぎ捨てた衣服を着始めた。 その様子を、隼人は寂しそうな表情で見つめる。 「拓海……もう、行くのか?」 「ああ。さっそく、『農場』ってのに潜入しないとな」 腕をシャツの袖に通す拓海。 隼人はたまらずに、拓海の背中に抱き着いた。 どうした? と振り向く拓海。 「……拓海……もう一回、してくれないか?」 隼人の神妙な言い方に拓海はニヤッとしながら言った。 「なんだ、隼人。お前、いつからこんな甘えん坊になったんだ?」 そのまま、拓海は隼人の背中をギュッと抱きしめ、首筋に舌を這わした。 隼人は、あっ、ああっと喘ぎならも、自分しか聞こえない小声で呟いた。 (拓海、お前が知らないだけ。昔からだよ……) 二人の男はベッドに折り重なる。 そして、昨晩から幾度となく繰り広げた愛の営みを再び始めるのであった。

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