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(13) 夏樹 4 愛と強さと

空は少しづつ明るくなり朝になろうとしていた。 拓海と夏樹は、バイクを2ケツして湾岸線を走っていく。 朝もやの中を疾走する二人は、気持ちのいい潮風を感じていた。 夏樹は、拓海の大きい背中に体をギュッとくっ付けた。 (温かくて、安心する……) うっとりと目をつぶる夏樹。 一方で、拓海の腰に回した手がかすかに震えるのを感じた。 それは拓海のあの戦いをふと思い出したからだ。 圧倒的な強さだった。 (震えているのか、オレは……そうか、先輩はこんな気持ちだったのかな。圧倒的な強さの前では、自分がちっぽけに見えてしまう感じ……でも、オレは恐怖は感じない。それよりもっと他の感情。なんだろう、とっても不思議な気持ちだ。心が安らいでいる。そう、とても安心している。何故だ、何故なんだ?) 夏樹は、あの戦いの直後の事を思い返していた。 **** あの戦いの後、拓海はすぐに隼人と連絡を取った。 トラックの中の男の子の保護も、運び屋の二人の処分も、隼人に任せる事にしたのだ。 その連絡している最中、夏樹は突然拓海に抱き着いた。 そして、思いっきり顔を埋める。 「どうした? 夏樹?」 拓海は驚いて夏樹に尋ねた。 顔を上げた夏樹は、拓海と目を合わせた途端、大声で泣き出した。 子供のように、わんわん、と泣いた。 夏樹は、もう、どうにも我慢できなくなっていたのだ。 ホッとした途端生まれた複雑な思い。 それが感情になって湧きだした。 夏樹は、涙をぽろぽろ流しながら叫んだ。 「うっ、うう……オレ、お前のために頑張ろうとしたのに、ぜんぜんダメだった……それなのに、なぜかお前が来ちゃうし……それで実はめちゃくちゃ強くて……しかも、お前、超カッコいいし……」 支離滅裂に言葉が並ぶ。 「ううっ……オレ、全然強くなかった! 愛を守る為の強さ何て得られなかった!」 夏樹は空に向かって泣き叫ぶ。 拓海は、そっと夏樹の頬に手を当てながら言った。 「なぁ、夏樹、お前は強いよ」 「な、慰めなんかいらない!」 夏樹の拒絶に拓海は首を横に振った。 「愛のために戦う。これが強くないわけないだろ?」 「え!?」 夏樹は一瞬固まった。 拓海の瞳は、夏樹の事を見据える。 (ああ、また、あの時と同じ目……) それは、拓海と最初に出会った時に見た、奥底に輝きを湛えた瞳。 夏樹の鼓動は、トクン、トクンと打ち始め、体が熱くなり始めていた。 夏樹は無性に恥ずかしくなって、顔を背けて怒鳴った。 「あ、アホか!……負けたら意味ないだろ!」 「意味はあるだろ? いっそ愛が強まったじゃないか……」 拓海は、夏樹のアゴを持ち上げると、そのまま顔を近づけた。 夏樹は抵抗することなく、ゆっくりと目を閉じた。 「お前は本当に、アホだ……」 夏樹の最後の言葉は、拓海の唇によって塞がれた。 **** 夏樹は、バイクの心地よい振動の中で、ふとなぜ自分が安心しているのか、の答えが分かったような気がした。 それは、ごく単純な事。 相手が拓海であれば、そんな心配はそもそも必要無いのではないか? という事実。 この圧倒的に強い拓海の前では、夏樹の強さなど可愛いもの。 夏樹が少しぐらい強くなろうが、拓海が夏樹に恐れを抱くことなどあり得ない。 つまり、愛が壊れようがないのだ。 (フッ、そうか……オレは、こいつの胸の中に飛び込めばいいだけだったんだな……) その答えを導いた時、夏樹の頭の中にある声が響き渡った。 その声の主は、夏樹をずっと楔のように縛り付けてきた、もう一人の自分。 『夏樹、ついに出会えたのだな。お前のすべてを委ねられる男に……』 夏樹は、もう一人の自分に答える。 『ああ、そうだ。だから……もう、お前の事は卒業させてくれ。だめか?』 『ふふふ、そうだな……オレの役目は終わったな……おめでとう、夏樹……』 すっと、もう一人の夏樹は微笑みながら消えていく。 夏樹はそれを穏やかな気持ちで見送った。 『さよなら、心の中のオレ。そして、先輩……』 **** バイクは、ウインカーをカチカチさせながら、海沿いのパーキングに到着した。 拓海は、缶コーヒーをポーンと夏樹に放り投げた。 夏樹は、それを受け取ると冷たくなった頬にくっ付けた。 「ありがとう……拓海」 拓海は、どういたしまして、と肩をすくめた。 その時、ぱぁっと水平線に朝日が上った。 朝もやはいつの間にか消え去り、眩しいぐらいに二人の事を照らした。 「すげぇ、綺麗だな、夏樹。こっちへ来いよ」 「……ああ」 拓海は、岩壁の柵に乗り出して、水平線を真っすぐ見つめる。 夏樹はその姿を横目で覗き見た。 拓海の髪は海風になびき、神話の世界に登場する美しい英雄の姿を連想させた。 「なぁ、拓海……」 「ん? なんだ?」 「……オレを抱いてくれないか?」 ざざざっと静かな波の音が聞こえた。 遠くの方で水鳥が羽ばたく。 しばらくの沈黙の後で、拓海は夏樹の肩をすっと抱き寄せて言った。 「……やっと言ってくれたな。夏樹」 夏樹は、拓海の胸に寄りかかり、ああ、とだけ呟いた。 **** 二人が辿りついたのは海沿いのラブホテル。 夏樹は、激しく拓海を求めた。 それは、檻から解き放たれた猛獣のよう。 拓海を裸にすると、体中に触れ、まさぐり、愛撫し、キスや甘噛みを繰り返した。 (ああ、オレはやっと拓海と一緒になれる……) 夏樹の頭の中は、拓海の事でいっぱいになっていた。 拓海と出会ってからずっと願っていた事。 それが、やっと実を結ぶ。 夏樹は、憧れの拓海のペニスを狂ったようにしゃぶった。 亀頭からカリ、竿を伝わり玉袋。 無我夢中で吸い続けた。 やがて、夏樹は我慢ができなくなった。 女豹のポーズをとり、お尻をキュッと上げて拓海に向けた。 綺麗に咲いた夏樹のアナルの蕾。 夏樹は、恥ずかしさで耳まで赤くした。 「オレのに挿れてくれ……」 拓海は、しれっと意地悪な顔をして聞き返した。 「何を何処に挿れるって?」 夏樹は、顔を真っ赤にして怒った。 「そ、そんなの決まっているだろう! お前のペニスをオレのアナルにだ!」 拓海は、クスクス笑って、その怒った夏樹の唇にキスをした。 「可愛いな、お前は……夏樹、好きだよ」 夏樹は、カーッと赤い顔がますます赤くなり、恥ずかしさで涙目になった。 拓海は、夏樹の頬を優しく触れ、再び唇を合わせた。 やがて、拓海の男根は夏樹の中に吸い込まれていった……。 **** 夏樹の心は徐々に解放されていく。 ずっと心に秘めていた不安が消えていくのだ。 それは、自分の体を拓海が気に入ってくれるか、という根本的な不安。 夏樹の体は、それこそ筋肉質の男らしい体である。 売子達のように、ほっそりとした体や、柔らかくてしなやかな体とは正反対。 夏樹は、そんな自分の体にコンプレックスを抱いていたのだが、自分の中で拓海のペニスが大きく固くなっていくのを感じて、杞憂だった事を知った。 (よかった……オレのアナルを気に入ってくれている……) 夏樹は、ホッとした。 するとどうだろうか? 夏樹は、ただ快楽を貪る淫らな男の姿へと変貌していった。 「ああ、すごい、拓海のデカチンポ、固くてすごい感じるっ……体の芯に突き刺さる……オレ、お前のおちんぽ大好き……最高だ、アッ、アッ……」 「いくーっ……はぁ、はぁ……凄いっ……気持ちいいっ……拓海にイカされるって最高!……また、いっちゃう、いっちゃう……アーッ」 射精とメスイキを繰り返す。 そして、拓海へのおねだりはエスカレートしていく。 「拓海、オレのケツマソコが、お前の勃起おちんぽを欲しくてジンジンしているんだ……だからもっと、もっと、激しくっ、奥まで、そう、もっと、もっと、突いてくれ、思いっきり、アーッ」 「拓海の熱いミルクを沢山欲しい……いいだろ? 溢れるくらい、オレの雄膣に出して、出して……」 そんな風に発情しきった夏樹を、拓海はしっかりと受け止め、力の限りピストンで突き上げる。 そして、拓海は我慢できずに「いきそうだ……」と根を上げて達すると、夏樹はお腹を押さえて歓喜の声をあげるのだ。 「ああ、最高だ!……いいぞ……入ってくるっ、拓海のミルク! 拓海のおちんぽがビクビクいって……熱い、熱いよ、拓海。あ、ダメだ……オレも感じて来た……くっ、いきそう、いくっ…アッ……」 激しく続く男同士のアナルセックス。 バック、騎上位、正上位……互いの体を組んず解れつさせ絡ませ合う。 その接合部は、二人の唾液、我慢汁、それに精液とがドロドロにミックスされ、キラキラと輝く。 夏樹はいつしか、はぁ、はぁ、と甘い息を吐きながらイキの極限を彷徨い、アへ顔のまま腰を振り続けていた。 もうそうなると制御が利かない。 夏樹は、拓海の男根から伝わるイキの痙攣の心地よさに、ペニスの先からプシャーっと潮を吹いた。 さすがの夏樹もそれには、 「……で、出ちゃた……オレのメス汁……み、見るなよ……恥ずいだろ! た、拓海、お前が悪いんだからな!」 と、顔を真っ赤にして言い訳をした。 こんな具合に、夏樹と拓海は、心行くまで男の体を貪りあったのだった……。 **** どのくらいセックスをしていたのだろうか。 二人は全裸のまま、ベッドの上で折り重なり、互い鼓動を感じていた。 拓海が夏樹の腰に手を回して言った。 「……やっと、落ち着いたようだな、夏樹」 「……ああ、そうだな……ここ何年かの溜まっていた性欲が爆発できた……オレ、今さ、超満たされているよ」 「ふふふ、それは良かったな」 拓海は、スッキリ顔の夏樹を見て微笑んだ。 夏樹は、体を起こすと、突然怒り口調で言った。 「ところで、拓海! お前、なんで、他の格闘技も達人だって言わなかったんだよ! 柔道、ボクシング、空手。なんでも出来るじゃねぇか! 畜生! すっかり騙されていたぜ!」 「まぁ、別にそんな事どうでもいいだろ?」 拓海は、肩をすくめながら答える。 そんな拓海に、夏樹は睨みながら続けた。 「いや、あるだろ! あー、そうか。最初に合気道を見せたのは、正当防衛。つまり、先に手を出さないっていう意思表示だったというわけか……」 「まぁな……」 「まぁ、いいぜ。お前の強さを見極められなかったオレがいけない……オレにそれだけの実力が無かったってことさ。オレはまだまだ弱い。もっと、もっと、強くなって、お前を超えて見せる!」 息巻く夏樹。 拳をぎゅっと握って未来を見据える。 そんな夏樹を横目で見ていた拓海が言った。 「なぁ、夏樹。水を差すようで悪いが……一言いいか?」 「なんだ?」 「お前さ、前に、自分の事が怖いか? って俺に聞いたことがあったよな?」 「ああ」 「正直言うとさ、お前の事、怖いんだが……」 「え!? ど、どうしてだよ! オレなんて弱いし怖くないだろ?」 夏樹は驚いて聞き返した。 『お前の事が怖い』……それは悪夢のデジャブ。 しかし、拓海に限って、そんな事はあるはずはない、はずなのだが……。 夏樹は動揺のあまり、焦点を合わせられなくなっていた。 (う、嘘だろ……拓海、お前も……オレの事を嫌いになってしまうのか……) 天国から地獄に突き落とされる。 そんな、悪夢を思い起こされる。 拓海は、頭を掻きながら言った。 「いやぁ、その、お前さ……たまに俺の事、獲物を狩る肉食獣のような目で見てくるときがあるんだよ。最初に会った時もそうだった。ああ、俺はいずれコイツに喰われるんだろうなぁ、って思ってたよ」 夏樹は、ぶーっと盛大に吹きそうになった。 なんだよそれ、脅かすなよ! と思わずツッコミを入れたくなったが、一方で、その内容に驚愕した。 「へ!? う、うそ……し、しかし、拓海、お前だって、オレを誘うような事を言ったよな!」 「ああ、それはな……怖い物見たさ、ってやつ? えへっ」 拓海は、おちゃめに舌をペロっと出して微笑んだ。 しかし、夏樹は、そんな拓海のボケにすら反応出来ず、まだ信じられないという風に、わなわな、と拓海を見ていた。 「お、オレがそんな色目でお前を見ていただと!? そんな事あるわけが……」 「やっぱり、自覚なかったか……まぁ、さっきのセックスで、その意味はだいたい分かった訳だが……」 自分の無自覚な行動を見透かされていたという失態。 それは、非常に恥ずかしいことなのだが、今の夏樹は、それを逆手に取ってやろうというしたたかさが生まれていた。 夏樹は鼻の穴を膨らませて言った。 「ふーっ! まぁ良いぜ!」 そして、得意げな顔を作って続ける。 「そっか、そっか……オレが怖かったか……それは、オレにも拓海を超えられる領域があったという事だな……ふふふ。よし! オレは寝技を極めて、お前を超えてみせるぜ!」 拓海は、驚きのあまり慌てて叫んだ。 「ば、馬鹿! だから、寝技は既に俺を超えているんだって! お前は、性欲お化けだろ!」 夏樹は、構わずにビシッと拓海を指さす。 「うっせえ! さぁ、第二ラウンドだ、拓海! 次も本気でこいよ! オレの寝技でお前の足腰を立たなくしてやる!」 「……ひぃ! 夏樹、お前は本当に怖いやつだな! だ、誰か、助けてくれー!」 拓海は、思わず悲鳴を上げた。 そして、ベッドから這い出ようと手を伸ばす。 しかし、夏樹に背中にどっしりと乗っかられてしまい、哀れにも阻まれてしまった。 「ふふふ、オレは怖い男なんだ! 覚悟しろ、拓海! あははは!」 夏樹は笑いながら、心の中で思う。 (化け物は化け物でも、性欲お化けか……悪くない。悪くないぜ!) 夏樹は、なぜか違う方向に強さを求めたくなっていた。 **** それから数日が経ったある日の事。 ここは、『美男子通り』の裏路地。 そこに、夏樹ととある売子が手を繋いで歩いていた。 なぜ、夏樹と売子が? というのには訳がある。 その売子は、超売れっ子のコールボーイで、お得意様からのご指名で3番街近くのラブホに出向く事になったのだ。 しかし、3番街近くは最近とくに物騒な事件が多発してるときている。 お店としては、看板息子が3番街の住人にでも襲われたら一大事。 という事で、執行者の異名をもつ夏樹に声が掛かった、という事なのだ。 売子は申し訳なさそうに、夏樹を見上げて言った。 「すみません、夏樹さん。護衛をお願いして。最近、物騒な事件がおおくて……」 「ん? 構わないよ」 夏樹は、何も考えていなかった。 ぼうっと、拓海の事を考えていたのだ。 売子は夏樹の顔を覗きながら言った。 「なんか、最近の夏樹さんって、優しくなりましたよね?」 「そ、そっか?」 夏樹は驚いて売子に顔を向けた。 「ええ。すこし前までは『執行人』の名の通り恐ろしい雰囲気でしたし、売子のボク達にもお説教ばかりしてましたし……」 夏樹は、頭をひねった。 雰囲気が変わったかどうかは、自分ではよく分からない。 しかし、以前は、確かに売子達にイライラした感情を持っていたが、今はそのような感情は無くなっている。 はて? どうしてだ? 売子は、思いついたように言った。 「あー、もしかしたら、夏樹さんとよくご一緒していた男の人、あの人とラブラブだったからですか?」 「な! ラブラブって……いや、なぜ、それを!」 夏樹、手を前に出して、焦りながら答えた。 そんな夏樹の珍しい姿を見た売子は、クスクス笑いながら言った。 「夏樹さんだけですよ。知らないの。いつもイチャイチャされていたじゃないですか?」 「くぅう。まぁ、それは、そうだが……」 夏樹は恥ずかしさのあまり頬を真っ赤にした。 「いいじゃないですか? 男の人に愛されるのってとても満たされますよね。ふふふ」 心から楽しそうに微笑む売子。 その売子の顔を見て、夏樹はある事に気が付いた。 (そっか、そういうことか……) 夏樹はようやく理解した。 売子達を毛ぎらっていたのは、嫉妬だったということに……。 売子達は、その可愛い容姿だけで、何の苦労もなく男達を魅了し、男に愛され続ける。 夏樹は、そんな彼らの事が羨ましくて仕方なかったのだ。 しかし、拓海の登場により、夏樹は愛される喜びを知り、そんな醜い感情が洗い流された。 そして、今となっては同じ気持ちを持つ者同士。 いや、むしろ売子達の方が先輩である。 だから、夏樹は恥ずかしさついでに、ずっと考えていた事を売子に相談することにした。 「ところでさ……そのな、もっと男に愛される為に、その、いいテクニックとかな、あったら教えてほしいのだが……」 「へ?」 キョトンとする売子。 しかし、直ぐに笑顔になって言った。 「うふふふ。いいですよ! 特別に教えちゃいますよ!」 「ははは、悪いな……ありがとう」 夏樹は照れ笑いをして頭を掻く。 売子は、人差し指を立てながら得意気に話し始めた。 「まずですね、最初はお口で良く濡らしてですね……」 「ふむふむ……」 夏樹と売子は、愛する男の顔を思い浮かべては、楽しそうにおしゃべりしながら歩いていく。 その背中は、さながら恋バナに花を咲かせる十代の若者のように見えていた。

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