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すれ違う笑いのツボよりも愛は深く――2

 センスがないからこそ1カ月前から考えているというのに、どれもこれも見事にウケないのである。  今年はやけくそになって、一緒に暮らしてから最初に告げたギャグを言ってみたのだが、それについてのツッコミもなく、呆れ果てて終わってしまった。 (もともとギャグなんて言わない俺だからこそ、何かがきっかけになってウケたら、間違いなく臣たんの笑いをとれると思ったのに……)  チッと心の中で舌打ちをしながら、テレビ画面に視線を移した。  ぼんやりしてる間に番組は少しだけ進んでいて、お笑い芸人7名が某所に集められ、仕方なさそうな表情をありありと浮かべつつ、用意されているフィッティングルームの中へと消えていくところが映し出されていた。 「これから着替えなんだ。メキシコ警察って、どんな制服なんだろうね?」  テレビの中のお笑い芸人とは真逆の楽しげな顔した和臣が、俺に寄り添うようにぴったりと躰をくっつけながら座り込む。  質問されたことを華麗にスルーして、かわいい顔をガン見していたら、大きな瞳を瞬かせて見つめ返してきた。 「恭ちゃん、どうしたの?」 「いや、なんでもない……」  毎年一緒にこの番組を見ているのに、実は最後まで見たためしがない。  普段なかなか一緒にいられないからこそ、今のように躰をくっつけたり手を繋いだりとここぞとばかりに接触しているうちに、気がついたらそういう雰囲気に流され、姫納めから姫始めという展開になっていた。  ちゃっかり録画しているので、最後まで見られなくてもなんら支障はないけれど、今年は徹底的に我慢して最後まで見てやろうと考えた。  姫納めは封印して姫始めをするぞという気合いを注入すべく、和臣の手を握りしめた。 「ただ手を繋いでるだけなのにね。いつも安心しちゃう」  気合いを入れた俺の気持ちなんて知らない和臣の言葉に、首を傾げてしまった。 「昔からこうやって恭ちゃんに手を繋いでもらったら、どんなに不安なことがあっても大丈夫って思えたんだ。僕自身に心配事があったり不安を抱えているときに限って、いつも手を繋いでくれたから、尚更そう思っちゃったのかもだけど」 「何か、悩んでることでもあるのか?」  自分としては和臣に触れたいときに、勝手に手を繋いでいただけ――。

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