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第1話
『再生数:24』。
とある動画は所謂、レトロゲームというポジションのゲームをプレイしているもので、あまり実況がされていなかったものだった。
それに対して、『再生数:260102』。
と表示された動画は同じレトロゲームで、ゲーム自体の知名度もそんなになかったものの、25万回を超えていった。
これはそんな対称的な動画を上げた実況者達が出会う物語である。
「『物語』っていうけど、実際、やってるのは気に入った女の子と仲良くなって、いい感じになって終わるだけなんだよね」
多米杏一(ためきょういち)はたわいもないゲームの感想を、友人ではなく、小さなゲーム屋・尾場ゲームショップ(略してOGS)の店員にして店長の尾場(おば)としていた。
おばといっても、女性ではなく、ゲーム好きが高じて半ば趣味で営業しているような中年間際のおじさんだ。
そして、多米は名前に違い、パン党の大学生兼ゲームおたくだった。
「そうそう。まぁ、別に否定はしないけど、もっと重厚感のあるヤツだと思うじゃん」
「まぁね」
尾場は多米を宥めるように口にすると、ココアの入った可愛らしいクマのマグカップを多米に手渡す。
客は多米が来る以外は常連の客が何人か来るぐらいで、店員や客がココアを飲んでいても、とやかく言う者は1人としていない。
そんな緩やかでまったりとした空間に、カランと音を立てて、ドアが開く。
小さなゲーム屋のドアを開いた男。
彼は凡そこんなマニアックなゲーム屋に入り浸るようなタイプではなく、どちらかと言えば、派手な容姿をしていて、BBQや森林浴といったアウトドアを嗜んでいる感じのする男だった。
多米は彼をどこかで見た覚えがすると、そのどこかに思いを巡らす。
だが、尾場によってあっさりと答えを出された。
「ああ、津麦(つむぎ)君じゃない! 久し振りだね」
「津麦……」
と小さく声を漏らした多米は目の前の男をもう1度、足元から見る。
落ち着いたオレンジをした紐がアクセントになった黒いスニーカーと言い、黒いスキニーパンツと薄いブラウンのボーダーの入ったTシャツと言い、オリーブグリーンのシャツチェスターと言い、相変わらず女子にも受けそうだ。
「どうも、どうも津麦桃李(とうり)です。詰みゲーが残り1個になったから来たよん……って、多米君じゃん!」
津麦は店長への挨拶をそこそこに多米を見つけると、多米に近づく。
実は、多米と津麦はゲーム屋から見て、裏手に位置している蓮田(はすだ)大学に通う文学部の2回生で、1年前は出席番号が近いことから同じ教授の基礎研だった。
ただ、先述に触れた通り、津麦は見た目だけ言えば、なかなかの陽キャで、多米は陰キャとまではいかないが、大人しいタイプの男だった。
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