1 / 10

第1話 幼馴染

【忘れ草】  3月の誕生花。  橙赤(だいだいあか)色の、百合のような6弁花。  花言葉は『愛の忘却』  思いもよらない。    後ろから、突然、壁に押し付けられ、夕輝は抵抗した。 「ちょっ……何するんだよ! やめろ、蒼空!」 「やめない! ずっと後悔してた。もう、嘘をついたりなんかしない」  バン、バンと叩いた壁から、額が落ち、ガラスが割れた。  それは、まだ高校生だった頃の、屈託なく笑っている2人の写真。  久しぶり帰ってきた、故郷。  同級生が集まり、酒を飲む事になった。  実を言えば、俺は下戸。だけど、カッコがつかないから、上手いこと誤魔化していた。 (クソ、力が入らない)  間違って呑んでしまった酒で、歩けなくなった俺は、幼馴染である蒼空の家に担ぎ込まれた。  この時は、まだ、彼がこんな事をするとは疑いもしていなかった。  磔にされているにも関わらず、なぜか、壁に貼られた広告の内容が目に入った。 『春祭り』  その字に、夕輝は目を細めていると、背中の、ねっとり、とした感覚で、身体をのけぞらせる。 「お……い……んっ!」  快感に似た、熱の籠る、甘い刺激。  ゆっくりと、体を撫でられ、痺れる…… 「ぁぁ……っ」 「夕輝、可愛い」  前にも言われたような事があるのに、頭は、今の事しか、考えさせてはくれなかった。  笑いを零して、吐き出した、蒼空の熱い息が、更に夕輝から力を奪っていく。 「蒼空……」  押し付けていた力はいつの間にか無くなっていた。  そのかわり、床に座り込み、夕輝は惚けた、だらしない顔で、蒼空を見上げていた。 「今、楽にしてやるからな」 「あっ……あぁ」  足の間にある昂りを弄られ、夕輝は首を振る。 「やめ……あ……やだ」 「大丈夫」  何が大丈夫だ。  そんな思いは、屹立(きつりつ)の、ぐちゅぐちゅと淫らな音にかき消された。 「んんっ……ぁ……ん」 「顔……見せて」  静かな部屋で、響き渡る、痴情の音。  匂い。  恥ずかしい……  夕輝は顔を隠していたが、顔から腕を剥がされ、そのまま……床に押し倒された。  喘ぐ声が、まだ自分のものだと受け入れられないまま、快楽にただ身を任せる。  互いの息遣い。蒼空の苦悶している顔に、きゅうっ、と胸が締め付けられた。 「夕輝? 痛い?」  夕輝は、泣いていた。  違う……これは。  首を振り、忙しく呼吸をしながら、口を開いて一言だけ、零した。 「……怖い」  蒼空が、そんな自分を見て、妖艶に唇を舐め、笑みを浮かべる。  その間も止められる事なく、繰り返される執拗な愛撫が、夕輝を高みへと導いていく。 「あぁ……んっ……んっ……はぁ……ぁ」  怖い。  だけど、止める事もできなかった。 「蒼空……蒼空……もう……ぁあ!!」  チカチカ、と目の前が光り、一気に焦点が合わなくなる。  それと同時に、乳白の飛沫が、体に散った。 「夕輝、思い出して。次は、一つに繋がろう……」  体が、ビクビクと痙攣を起こし、蒼空の声が聞こえた後、脳は、もう、すでに考える事をやめ、夕輝の意識は、闇の中へと落ちていった。

ともだちにシェアしよう!