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第2話 高校の頃

 椋野夕輝(むくのゆうき)は、夕愛高校に通う2年生。  この町の教育施設は、1箇所にまとめられており、小学校から同じ通学路を通る、若芝蒼空(わかしばそら)とは、すぐに仲良くなった。  ガラリと扉が開いた。 「夕輝、終わったぞ。帰ろうぜ」 「また、告白されたのか?」 「あー、うん。でも、断った」  その答えを聞いて、夕輝は、ホッ、とした。  蒼空は、背も高いし、かっこいい。それに、町では有名な、旅館の跡取り息子だった。  その為、こうやって女子から告白される事は、珍しい事じゃなかった。 「だれ?」 「世砂(よすな)」 「美人じゃん。付き合っておけばよかったんじゃね?」  はは、っと蒼空は笑い声をあげた。  俺は、いつからか、蒼空のことが好きになっていた。  もちろん、恋愛の対象としてだ。  だけど、その想いは、一生、心に、しまっておくつもりだった。  橙赤色の、いつも見ている風景の中を歩き、いつもの別れ道で、2人は立ち止まった。  少しだけ冷たい風が、横切る。 「後1ヶ月したら、俺ら、3年生になるんだな」 「進路かぁ。お前はいいよな。旅館継ぐんだろ?」 「まぁ、いずれはそうなるんだろうけど、まだ、さ、考えたくないよなぁ」 「もし、後継がなくたって、なんでもできるんじゃないか? お前、かっこいいし、頭もいいんだし」  それに比べて、俺は……特に取り柄もない。  背も大きくないし、とりわけ、かっこいいわけでも、頭が良いわけでもない。 「大人になりたくねえなぁ」 「まだ、あと、一年あるぞ。あっそうだ、『春祭り』行くだろ?」 「もう、そんな時期だなぁ」  3月入ってすぐ、春の到来を祝う為の祭りが、毎年行われる。  毎年決まって、夕輝は、蒼空と行っていた。 「今年くらい、彼女でもつれてけよ」  冗談で言うと、蒼空は眉をあげて、踵を向ける。  広い、蒼空の背中を眺め、胸が、チクリ、と痛んだ。 「寄り道しないで、まっすぐ帰れよ」 「ガキじゃないっつーの!」  夕輝は、顔を縮めて、舌を出した。 「じゃーな」  蒼空は、口を手で覆って吹き出していた。  途中で半身を向け、彼のあげた手を目で追いつつ、夕輝も背を向け、帰路に就いた。 「夕輝、遅かったじゃない。森にとられたらどうするの?」 「もう、そんな、ガキじゃねーよ!」  母親の言葉を、面倒、だと思いながら2階に昇る。  うちは、この町に昔からある家で、周りは森に囲まれている。  『夕方になったら、森に入ってはいけない』  それは、この町の子供が、大人になるまで、言われ続けている事だった。 「森に入ったら、無くし物するなんて、迷信だろ?」 「バカにしちゃいかん、夕輝。昔あそこで……」 「ああ! もう、いいよ!」  じいちゃんの、長い話しを聞かされるのは、まっぴらで、夕輝は茶碗に残るご飯を、一度に、口に、放り込んで、部屋に戻った。            ※ 「ねえ、椋野くん、お願いがあるんだけど」  ある日、1人でいるときに、蒼空がフった、世砂が話しかけてきた。 「蒼空の事なら、知らないぞ?」 「そんなこと言っていいのかな?」 「なんだよ、気持ち悪ぃ」 「気持ち悪いのは、どっち?」  ニヤニヤと笑う世砂を見て、夕輝は顔色を変えた。 「あは、そうだよね。椋野くん、蒼空くんの事、好きでしょ? 私、気づいちゃったんだから。気持ち悪い……」  世砂は最後、吐き捨てるように言った。 「蒼空くんに、言っちゃっても、いいの?」 「…………だろ」 「え? なに? 聞こえませんけど?」 「ダメに決まってんだろ」  世砂は穢らわしいものでも見るように、目を細めた。 「私、蒼空くんの事、諦められないんだよね。だから、ね? 協力、してくれるでしょ?」  悪魔が、バカにしたように笑い、言ったのは。 ”春祭りに、蒼空を呼び出して欲しい”  という事だった。

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