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第3話 春祭り

 結局、『春祭り』には、蒼空の方から誘いが来た。 「明日、祭り。11時でいいよな?」 「おぅ!」  あっという間に、その日はやって来た。  世砂とは、祭りの終わりに上がる、花火の前に、偶然を装って、落ち合うことになっていた。  それまでは、毎年しているように、店を回り、たこ焼きを食べ、遊ぶ。 「おい、夕輝。これ」 「ぜってー、やだ。ほら、これだ!」  ちょんまげ帽子を、蒼空に被せ、顔とのバランスの悪さに、大笑いしていると、手に持っていたネコの耳を、夕輝は付けられた。 「夕輝、可愛い」 「にゃーん、てか?」  もしかしたら、今年が最後かも知れない。  なんとなく、そんな事を思うと、淋しいという気持ちが、襲い、夕輝は腹を抱えて、笑っていた。  花火の前。  約束どおり、世砂が今見つけたかのように、声をかけて来た。 「蒼空くんも来てたんだ。友達帰っちゃったんだ、一緒に花火見てもいいでしょ?」  蒼空は、俺の方を見て、救いを求めていた。 「仕方ねぇな」  腰に手を当てて、笑って、了承すると、蒼空も諦めたように、息を吐いた。  ごめんな……蒼空。 「あー、おれ、ちょっと、食いもん買って来るわ。腹減った」  世砂からは、合流した後、蒼空と2人きりにしろ、と言われていた。  焼きそばを買って食べた後、飲み物を片手に、適当に、ぶらぶらした。 (つまんねぇな、1人じゃ)  多少、興 気になる露店もあったが、蒼空のいない今は、やる気が起きなかった。 (そろそろいいか……)  一通り回って、2人のところに戻ってみる。 「なぁ……」  後ろにいる夕輝に、2人は気づかなかった。 「椋野くんて、蒼空くんのこと、好きなんだよ。しってた? あー言っちゃった」  なんで……? 「夕輝が? ……嘘だろ?」 「ねぇ? あり得ないでしょ?」  遠目でも分かるくらい、蒼空が驚いているのが分かった。  そして、返事に困ったように、苦笑い。 「はは……それは、困ったな」  と、言った。  言わない約束だった。  なのに……  手から零れ落ちる。  持っていた、飲み物が、地面に落ちた。  その時、はじめて、2人は俺がいた事に、気づいた。  見られたくない!  蒼空が、振り向く前に、夕輝は走っていた。 「夕輝!」  聞こえた気もする。  だけど、振り返られなかった。  ただ、ひたすらに、日が落ちて、橙赤色の路を。  走って  走って  走って……  無我夢中で、辿り着いたのは……  たぶん、誰も来たことのない、場所。  想っているだけでよかった。  だけど……知られてしまった。  いう事ができないことくらい、分かってたのに。  幼馴染で、親友、それでよかった。  一面に咲く、忘れ草の、強烈な橙赤色が、目を埋め尽くし、溢れて、頬を伝った。  そして、夕輝は……願った。 『想いを。忘れさせてください』  と。

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