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第1話「プロローグ」——空視点——
「空、お前の担任の先生から電話で苦情……というより泣きついてきたんだけど?」
朝の忙しい時間から親のお小言を聞ける程、空は朝が強いわけではない。もっというなら、高校入試を終え、残りの優雅な中学生ライフに水を刺されることが我慢ならなかった。
「うっせぇな……。高校の入学式で新入生挨拶をやってくれって言われて、それ断っただけじゃんかよ」
いつも通り親からの手作り料理——ではないコンビニ弁当が卓上に並ぶ。それを一つ手に取り、寝ぼけ眼でレンジの中へ放り込む。
「何言ってんだ。入試終わってからほとんど学校に行ってないじゃないか」と親、もとい空の叔父である流歌は、オーダーメイドのスーツを外出するギリギリまでハンガーにかけたままにしている。
「欠席が入試に響かないなら、もっと前から行かなかった」
「僕もそれには賛成だけどね」
「でもどうせなら、その金髪頭で学校に行き続けたら良かったじゃん。新入生挨拶をするのに相応しくない、て中学校側からチェンジの断りでも入れてくれるんじゃない? 空のことだから、やりたくないんでしょ」親らしからぬ発言をする流歌。
それに無言で返す思春期の空は、毛根からいじめ抜いてもサラサラな金髪の前髪を悩ましげに見る。
「俺が言うのも何だけど、流歌って流歌だよな」
久々のスーツらしい流歌の手元は、二十八のアラサーになってもおぼつかない。
しかし、空も手助けできるほど器用ではないので、レンチンした惣菜弁当を食いながら、「父親とは到底思えん」と言った。
それに流歌が思ったより食いついた。「ソレ、高校の友達には絶対に言わないでね。僕、ちゃんと父親やってるつもりだから」。
「お、おう。分かってるよ。飯以外は、ちゃんとやってくれてるし」
「そうそう。ご飯もね、やりたい気持ちは山々なんだけど、ハリボテの嘘だと、ボロが出ちゃうからさ」
「……やっぱり、全て何か仕組んでやがんな」
「さぁ何のことだか? それより、先生がうちに泣きついて電話かけてくるくらいだから、きっと空以外いい人見つからなかったんだよ。諦めて登壇したら?」
結び終わった流歌の首元に、綺麗なネクタイが提げられている。嫌味なほどに丁寧な仕上がりだ。
「はぁ? 絶っ対ぇヤダ」
「僕、カメラ構えて待っとくし! 息子の登壇してる姿なんて早々見られるものじゃないからね!!」
空が一つ返せば、流歌は二つ、三つと続け様に返してくるので、倍返しどころの話ではない。どちらが子供なのかよく分からない構図になるが、空は気付いてしまった。「……じゃあ、ウィッグ被って変装してやる」。
「正解」とニンマリする流歌に、まだまだ頭が上がらなかった。
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